《研鑽せし冒険者》:日常①
日が昇り、そして沈むこと七回。
ティル・ベイリーはその傷が完治したことを証明する書類と共に、看護所を後にしていた。
目覚めてから、治癒士も信じられない程の驚異的な速さで体力を回復させたティルは、経過観察という名目でベッドに縛り付けられていたものの、今日、ようやく解放されたのだった。
毎日、看病や検査をしてくれた看護婦に礼をし、腕にぶら下がって離れないリンを引きずりながら、マグノ.ヴィアを歩いていた。
「リン、腕が痺れてきたから逆側にしてくれるかな」
朝から晩まで一時たりとも離れようとしないリンは毎日、まるで子供のようにティルにじゃれついていた。最初はティルも満更ではなかったのだが、その馬鹿みたいに多い体力と剣闘士らしい硬く握られた拳に慄きながら日々を送っていた。
「うん」
腕から引き剥がすのは至難の技で、あのウォーロックをしてもリンをティルから離れさせられなかった。
左腕が完治してからは更に激しさが増し、容赦が無くなって来た今日この頃である。
「ギルド会館に行く前にお土産を買いたいんだけど、何が良いと思う?」
「最近は寒いから温かい肉団子のスープ」
「スープは持っていけないよ」
「それなら、串焼き肉。塩味も良いけど、私のおすすめは断然、タレ」
短い期間ながら多くの人と会話をしていたリンは語彙力が増え、日常会話ならば、特に食事の話しになると饒舌になる。
その事に気づき、呆れつつもティルが答える。
「昨日もそれ食べてたけど飽きないの。たまには野菜も食べないと身体に悪いよ」
「野菜は悪。前にリーエスに騙されて食べた緑色のやつは気持ち悪かった」
緑色のやつ。レタスやきゅうりだろうか。
しかし、鮮度を求められる野菜は要塞都市ではなかなか値が張るため、リンがそれを食べたというのだろうか。それにレタスやきゅうりが冬に収穫できるとは思えない。
「ん~、それはどこのお店で買ったの?」
「まさか、ティルまで私を騙そうとする。あれは絶対に食べない」
頑なに拒否し続けるリンを諭すのを止め、ティルは覚えのある土産屋を目指す。
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