《研鑽せし冒険者》:夢
頭が割れるように痛い。腕が灼けるように痛い。
肺に、血に、脳に酸素が回っていたいのだろうか。
時折聞こえる、誰かの叫び声と泣き声が煩わしく感じる。
―――まだ、寝ていたい。
寝ていれば痛くない、怖くない、不安にならない。
安心できる空間がある。
このまま平穏な暗闇にずっといられたらいいのに。
だが、現実は残酷だ。いつも、最善を手に掴もうとして最悪を引き当ててしまう。
身体の左側に鋭い痛みが走り続けいる。
まるで鈍らの斧で叩きつけれているかのような痛みだ。
額の上にある冷たい感触の何かが唯一、心地よい。
―――もう少し、寝ていたい。
どうやら今日もあの夢は見ないようだ。
誰だろうか。
砂利道の上に立ち、うずくまって泣いている女の人が目の前にいる。
胸に何かを抱いているのか、腕を胸の前で交差させている。
小雨降る中、その何かを外敵から守るように背中を丸めている。その丸めた背中からは何にも屈さないという鋼の意思を感じる。
白色だったであろうローブは煤け、裾は切り裂かれている。背中にはのたうつように絡み合う蛇が刺繍されている。
そんな貧相な衣服とは対照的に顔立ちは非常に整っている。乱れた髪を梳き、疲れた表情が笑みとなれば、性別問わず誰もが息を漏らすような容貌だ。
―――この人は。逃げているのか。
獣の鳴き声や下木が擦れる度に怯えた表情を浮かべている女は早足で林道を突き進んでいく。時折、後ろを振り向いては顔を影を落とす。
数秒のような、数十分にも感じる時間が過ぎたのち、女は諦めてように顔を陰らせると、胸に抱いていたそれを地面の木の洞に入れた。
―――小さな子ども……
齢一歳にも満たない幼子、性別の判断がまだつかない程の子供だ。
母親と思われる女は幼子の額に口づけをし、口早に何かを伝えると、足早に立ち去っていった。
そんなことは露知らず、幼子はすやすやと寝息を立てている。
―――なんで、こんな小さな子を……捨てられるなんて可哀想に。
夢は続いていく。
終わりを知らない螺旋階段が上へ下へと向きを変え、夢の世界へと誘う。
―――もう、起きるか。
幼子の呼吸が荒くなり、泣き声を上げ始めた。
それにつられるようにして、ティルも涙を流した。
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