《修行中の半亜人》:パーティー②
「……という訳でモンスターを狩るのが冒険者の仕事なんだ。討伐した数や種類に応じて報酬金が冒険者組合や依頼主から支払われるんだ。僕一人なら一日五千ディネロで足りたんだけど、二人だから一万ディネロは稼がないと」
「お金……」
「そう、お金。ギルドに入ったらもっと沢山稼いでギルドに貢献したいし、リーエスさんやアレイアさんに早く認めてもらいたい……ギルド」
そこでティルは大切な事を忘れていたという事実が突きつけられる。
昨日、たった数時間前にティルはリーエスに《エーデルシュタイン》への加入を約束したのだ。
教皇庁に追われている身元不明の少女をリーエスに紹介するとでもいうのか。
例えリーエスが納得し、ギルドへの加入を認めてくれたとしても、ギルドに迷惑がかかってしまう。
「ど、どうしよう」
リーエスを一人で今の家に置いておくのも危険だ。
だが、ギルドに連れてきたとしても、アレイアは断固として反対するだろうし、リーエスに留まらず、シエラにすら影響があるかもしれないのだ。
無論、シエラやリーエスを信頼していない訳ではない。
逆だ。
半亜人であり、忌み嫌われるクオーターであるティルを信頼し、気遣ってくれる人を
傷つけてしまうのは、ティル自身が許せない。
「どうしたの」
途方に暮れているティルへリンが心配そうな感情と思われる声音で話しかける。
「い、いや大丈夫だよ。色々と考えてたら分からなくなっちゃった。ほら、モンスターが狩り尽くされちゃう前に狩場に行こう!駆け出しは沢山いるからね!」
リンに言えるわけがない。
短い付き合いだが、ティルはこの少女が感情を表に出すのが苦手なだけであって、その内側には豊かな感受性があるのを知っている。
もし、リンが原因で問題が起こる可能性があると知れば、何をしでかすか分からない。
「モンスター倒して、お金たくさん」
「そうだね。沢山倒して今夜は美味しい物を食べようか。今日はリンと僕がお互いを守るって約束した日だからね」
言っていて恥ずかしくなったのか、ティルが視線を彷徨わせ、頬をかく。
「うん。美味しいお肉、食べたい」
約束の日というこっ恥ずかしいフレーズに反応しなくて良かった、と胸を撫で下ろしたティルは知らない、ショーウィンドウに飾られているマカロンを見ようと顔をティルから背けたリンの顔がほのかに熱を宿していたことを。
「ほ、ほら、早く行こう! 今日からリンも冒険者なんだからね!」
しかし、とティルは思った。
今まで感じていた世界からの疎外感、孤立感をリンと出会ってから感じることが極端に少なくなった。
救われたのはリンの方ではなく、自分の方なのかもしれない。
だが、なぜか前髪で顔全体を隠し、よろめくような足取りで追いかけている少女を見ているとそんな考えは思い違いなのではないかと思えてくる。
「ま、待って〜」
朝日は昇り、月は沈む。
それが当たり前であると同じように半亜人の少年と謎の少女は確かにその瞬間、そこに存在していた。
長い歴史の一幕であり、生命が刻む一頁である。
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