《修行中の半亜人》:パーティー①
若い半亜人の男とヒューマンの少女がマグノ・ヴィアを歩いていた。
どちらとも軽装ではあるが、男が帯剣していることから辛うじて冒険者であることが分かる。パーティーと呼ぶにはあまりにも乏しい編成ではあるものの、その一人であるティル・ベイリーは初めての仲間に心躍らせていた。
「僕は魔法剣士なんだけど、盾を持ってないから戦闘スタイルは剣士か騎士に近いかな。前衛より中衛の方が得意だと思うんだけれど、リンの戦闘スタイルに合わせるよ。それで、リンは自分の職業とかあるのかな」
「殴って、蹴って、折って、壊して」
「そ、そっか。結構アレなんだね……まぁ、人それぞれ個性があっていいと思うよ」
予想外の返答に対して言葉を詰まらせるものの、リンのことを少し理解してきたのか、ティルは何とか答えを返す。
「今向かっているが豪華な宮殿地帯っていう場所。僕にとって適正レベルのモンスターが湧く場所なんだけど、多分リンでも大丈夫な気がするんだよね。昨日、家の扉を破壊しそうな勢いだったし、僕よりパワーはあると思うんだ」
「ごめんなさい」
「いや、別に壊されてないから大丈夫だよ」
感情の吐露が少ないリンに冗談が通じないが、すぐにまた未知の光景に胸を高鳴らせている姿にティルは安堵する。
「という事は拳闘士に近い戦闘スタイルのかな。でも、蹴りに重点を置いているのなら拳闘士というよりは戦士か狂戦士が近いのかな。魔法をどの程度絡めているかにもよるけど……んー」
己の知識の偏り具合に嘆きつつも、ティルはリンとの戦闘配置について考えを巡らせている。
リンは恐らく前衛向きなのだろう、それならばティルが中衛をするのが妥当だ。
基本的な考えとして、前衛は盾職や近接職が担当し、敵の注意や攻撃を受ける役割を果たす。防御力の高い人が選ばれる。
中衛は前衛を援護しつつ、前衛が捌ききれなかった攻撃が後衛にまでいかないように対処するのを得意としている。頭を使わねば務まらないため、パーティーリーダーが頭脳として中衛を務める場合が多くある。
そして後衛は弓職や魔法職が担当することが多く、一撃一撃の攻撃力が高い。しかしその反面、軽装であること防御力が低く、パーティープレイを前提としている場合が殆どだ。それに加えて、弓職ならば矢を正確に目標に当てられる技術、魔法職ならば魔法の知識や種類、魔力量なども直接的な強さに関わってくるため、難易度の高い職業となっている。
前衛、中衛、後衛が機能して初めてできるのがパーティープレイであって、熟達した冒険者になれば声を掛け合わずに状況を素早く判断し、お互いの動きに合わせて行動することも可能となってくる。
「今回は初めてだから、リンが前よりで僕が後ろよりにしよう。お互いが直ぐに入れ替われるようにしつつ、負傷しないように注意しようね」
低級冒険者が手傷を負うことは珍しくないが、回復薬や薬草などが高額なため、自然治癒に任せるしかなくなる。
その結果、小さな傷が増え続け負担となり、戦闘中に何らかのミスで命を落とすのだ。
また、切り傷やかすり傷が菌に侵されると可能する場合もあるため、油断できない。
「まずは、リンの戦い方を見てから僕も参加するから、最初は自由に戦ってみて。【メヒモス】か弱い【ゴブリン】なら僕でも簡単に対処できるし、攻撃を食らっても致命傷にはならない。リンはモンスターのことをどのくらい知ってるの?」
「あんまり……知らない」
「じゃあ、狩場につくまでの間、僕の担当をしているシエラさんから教わった事をリンに話しておくね」
そうしてティルはモンスターの説明を始めた。
モンスターが誕生した歴史は数千年前、神々の時代にまで遡る。
地の上を満たすほどにまで繁栄した人類種の平凡すぎる日常に飽き飽きとした神々が遊び半分でモンスターの始祖となる魔物『堕天使』を創造した。
『堕天使』は神々の命に従い世界各地に〈アーティファクト〉を設置した。
〈アーティファクト〉から生み出されたモンスターは世界を侵略し、平穏な生活を送っていた人間種を蹂躙した。
人類種の安全が保証されている領土の半分以上を失った時、ヒューマン、エルフ、ドワーフが『円卓同盟』を設立し、終わりなきモンスターとの戦いが始まったのであった。
特に旧カストラ平野には〈アーティファクト〉が四つあり、ここで命を落とした者の数は計り知れない。
現在は要塞都市がある意味、贄としてモンスターを引き寄せているため他の国を襲撃することはなく、冒険者たちによって数の増大が抑制されている。
モンスターの強さは様々である。
しかし、〈アーティファクト〉の種類によって出現するモンスターの強さが種類が変わることが分かっており、要塞都市のように地帯分けがされ、冒険者が適正レベルでモンスターを狩れるようになっている。
そんな〈アーティファクト〉の破壊計画は今まで何十回、何百回と試みられてきたものの、殆ど『英雄』達ですら〈アーティファクト〉に触れられた事はなく、冒険者の最終目標は到達不可能であると言われ続けていた。
だが、『五大英雄』が要塞都市、豪華な宮殿地帯の〈アーティファクト〉を破壊するため討伐隊を率いた大規模レイドを仕掛けた。そして、その全貌を捉えることに初めて成功しだのだった。
後日、クリスティーナ・デンによって紙へ投影され、何がモンスターを生み出し続けているのかが多くの人の知るところとなった。
その姿は三角形で空中に浮遊しており、各頂点に神々の言葉である古代文字が刻まれていた。常に光線を四方八方へと発光させており、討伐隊によるとその光線に当たった冒険者はまるで「蒸発したように」に消えたのだった。
『五大英雄』の一人である【重撃】ミシェル・トンプソンが接近するも、推定レベル70であり、輝く湖畔地帯のモンスターである【オブスィディアン】が数十体出現するというイレギュラーが発生し、撤退を余儀なくされた。
この後も幾度となく〈アーティファクト〉を破壊しようと、多くの冒険者が討伐隊を組んだものの、その殆どが命を散らした。
こうしてモンスターは今日に至るまで地上を跳梁跋扈し、人類種と世界の覇権を握る死闘を繰り広げているのである。
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