《駆け出しの半亜人》:パン屋Part3

 「あ、ウォーロックさん。あのクオーター、それ忘れてますよ」


ティルが去った後、エルフの少女がカウンターに置かれている小さな紙袋を指差す。


「あ、うっかりしてた。走って届けてくるから、少し待っててな」


ウォーロックがティルの後に続いて店を出ようとする所を、リーエスと呼ばれてたヒューマンが止める。


「ウォーロックさんはお疲れのようだし。アレイア、貴方が届けてくれないかしら」

「リーエスさん、なんで私があんなクオーターに……」

「あら、貴方はそういうクオーターとかハーフとかで区別するのは嫌いって言ってい

たじゃない。それとも心変わりするような事でもあったのかしら」


図星をつかれたのか、アレイアは答えを逡巡した後、小さく舌を突き出して抵抗の意思を示しながらウォーロックから紙袋を奪い取ると、ティルの後を追った。


***


 ウォーロック天然酵母店。その屋根の上。


「なぁ、やっぱり怒られるんじゃないか。あいつ怒ると面倒だし特に他の奴らの耳にでも入ったらって考えると……」


ローブを羽織った大柄な男が身震いをする。


「安心して、というか信用してほしい。私の隠形を完璧。誰も気づかない」

「そうだな、君の隠形は完璧だったが、相棒のやたらと図体だけがデカい奴の隠形はひどかったぞ」


後ろから唐突に声をかけられ、二人のローブたちが同時に得物に手をかける。


「なんだ、お前かよ。驚かせんなって」

「私が背後を取られるなんて…修行不足」


それが誰であるかを悟ると、二人は警戒を解き片や文句を、そして片や反省を始める。


「今はその時じゃないって、何度も話し合ってじゃないか。君に至っては正体をあの店主に晒しているし…」

「忘却魔法は得意分野。私と会った事実は残したまま、私ではない人と会ったと記憶をいじっておいた」


後から現れた男が、これみよがしに溜息を一つ吐く。


「面倒な事はやめてくれ。それとも副団長殿とお話がしたいのか」


大柄な男の顔面が青くなり、それを通り越して蒼白となる。


「か、帰ろう」


そう言い、両足に力を込めて飛び立とうとした時、小柄な方がある一角を指差す。


「物騒な気配がする。良からぬ者たちが何かを企んでいる」


その方向を見ても、ただ普通の街内が広がっているだけど、炎や煙など良からぬに該当しそうな事はどこにもない。


「ああ、知ってる。だが、あれはあくまでも僕たちの範疇内だ。それに企んでいるだけじゃ、罪に問えないからね。暫くは放っておいてあげよう」


おお、怖、という大柄な男の呟きに苦笑いしつつ、三人組は闇へと溶けていった。

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