《駆け出しの半亜人》:冒険者とは
「ほうほう、【メヒモス】が二体しか狩れなかった理由はあとで聞くとして、ドロップアイテムとは運がいいのニャ。触覚はポーションに使えるから需要はいつもあるニャ」
ポ、ポーション。
ちょっと、ふさふさな毛が生えた虫の足が入っているなんて俄かには信じがたい。
確かにポーションは患部に振りかけるだけで効果があるが、飲んだ方が即効性がある。
「普通は千ディネロだけど、広場で見たような状況だから素材価格が高騰しているニャ。頑張れば二千で売れるニャ」
シエラの目が妖しく光るのを見て、何かを察するティル。
「違法な事はダメですよ……」
「スレスレはオッケーだニャ。駆け出しは一ディネロでも多く稼いだ方がいいニャ」
「それ、職員が言っちゃって大丈夫なのですか」
「ティル君が言わなければ、問題ないって。お金は欲しいんでしょう」
時たま消えていくニャンの語尾にシエラの努力を垣間見たが、怪しい方に突き進んでいく話をティルは方向転換させる。
「そ、それより広場にいる冒険者のほとんどが《ルベリオロス》のメンバーですよね。あんな大手ギルドが討伐に失敗するなんて、例え亜種であったとしてもあり得るんですか」
シエラが困ったな、という風にこめかに手を当てる。
「君も耳が早いニャ。ティル君の言う通り、大型モンスターの亜種が出たんだニャ」
続きを促す。
「亜種といっても色んなのがあって、属性を変えたり、そもそもの攻撃や防御の方法を変えたりする種類があるニャ。それだけでも討伐難易度が跳ね上がるけど、討伐は不可能じゃないニャ。今回出たのは単純な増強型と聞いたニャ」
多い情報量をひたすら頭に叩き込み、知識として蓄える。
知識は多くても困ることなどない。
「君が使っている〈身体能力向上〉に近しいものだよ。単純な身体能力を向上させる魔法の凶悪性は君が一番知っているニャ。君はレベル9からレベル13に上がれるけど、【荒地の王】はレベル33から推定でレベル45まで跳ね上がったみたいなのニャ」
「十以上も……」
「そうだニャ。レベル差が十以上も出てくると、まともな戦いにすらならいないニャ。討伐隊の指揮官はレベル51らしいけど、周りを巻き込んむ戦闘を避けるために撤退したニャ。賢い判断ニャ。幸いにも死者がでなかったのが救いだニャ」
朝、募集条件はレベル25からとあの青年が言っていたのをティルは思い出した。
レベル差が最大である二十以上ある複数パーティーを死者を出さずに後退させるのは生半可な難しさではないはずだ。
それを可能にしたのだから、あの青年の実力、ひいては《ルベリオロス》の実力は最上級のギルドとして相応しいものなのだろう。
だからこそ疑問が生じる。
「討伐を開始する前に、モンスターが亜種であると分からなかったのですか。身体能力を向上させる魔法なら、体が魔法色を放っていると思うのですが」
すると、シエラは人差し指を口の前に持っていき、左右に振りつつチッチッチーとお決まりのあれをやる。しかも、似合っている。
「甘いね、ティル君。私は一言も亜種が魔法を使ったなんて言ってないニャ」
「あっ……」
「亜種は世界に生まれ落ちたときから亜種。余程の事がない限り討伐前に異常に気づくのは難しいニャ。だから、冒険者いつも死と隣り合わせなのニャ。私が言うのもなんだけど、割に合わない仕事ナンバーワンだと思うニャ」
シエラが椅子に腰掛け、おもむろにティルの両手を握り込む。
唐突な出来事であり、また羞恥心に支配されて手を振り払おうとするが、いつにも増して真剣なシエラを見て、ティルの動きが止まる。
「だから、私はティル君に冒険者なんかになってほしくない」
「じょ、冗談ですよね……」
いつも、明るく笑顔で話しているシエラの面影はそこにはなく、哀しみを宿した瞳でティルを見つめてくる、ティルの知らないシエラがそこにはいた。
「冗談じゃないよ」
結局、ティルは何も言えぬまま組合を後にしたのであった。
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