捜索(防御力)
「ダークナイト・グランドが消えたってどういう事よ」とアリスが報告にきたエルフに詰め寄っている。
「す、すみません。アリス様、ただ全員の死角に一瞬入って、次の瞬間には消えていたのです」
ぺこぺこと頭を下げながら、エルフはアリスに説明をする。
「そんな一瞬で移動できるわけないわ。あいつができるのは、あの移動魔法だけよ。瞬間移動なんて、聞いたことないわ」
アリスはその報告を否定する。
詰め寄られているエルフがかわいそうに感じる。
でも俺も同意見だ。
そんな瞬間移動ができる魔法があるなら、戦いのときにも使えばいい。
基本的にダークナイト・グランドは足か滑るような移動しかしていない。
もしも本当にそんな魔法を持っているなら、アリスだけと戦うのではなく、俺たちの方にも瞬時に移動して殺すことなんて容易いだろう。
「ここでぺちゃくちゃしゃべっていても、らちが明きません。その場所に案内してください」
ミコが横から入って、エルフに指示をする。
そして俺たちはエルフたちに案内されて、森のある地点に誘導された。
森の中の何でもないような場所だ。
木が周りにあって、地面には無造作に草が生えている。
戦いがあったせいか、動物は逃げてしまい、鳴き声がしない事だけが少しだけ不穏だ。
「ここで消えたのですね」
「はい。そこの木の陰に隠れた一瞬、エルフ全員の目から消えました。そして裏に回ったら、もう消えていました。この周囲も探しましたが、残念ながら」
示された木に近付いてみる。
「何の変哲もない木ね」とアリスが俺と同じ感想を言った。
回りに生えている木と全く変わらないように見える。
一緒にぐるぐるとその木の周りをまわってみるも、「何もないわね」とアリスが言った。
木のどこかが空いている訳でも、どこかに仕掛けがある訳でもなさそうだ。
本当にこの森の中に生えている一本の木に見える。
「俺には全然分からない。何か魔法みたいな仕掛けがあるのか?」
「私にも見当たらないわね」とアリスが首を振る。
「すみません。私にも普通の木に感じます」
植物魔法を持っているミコまで言うんだから、本当にこの木は何も関係のないものなんじゃないだろうか。
「ダークナイト・グランドはどんな動きをしていたの?」
アリスはエルフに尋ねた。
「こちら側から……」
木の手前側から木に隠れるように曲がる。
「このように動いて、この木の影で消えました」
エルフが立っているあたりの地面や木の幹を、俺とアリスで触ってみてみるが、何も変わった所は無さそうだ。
回りの生えている草と比べても、違う草花がある訳でもなさそう。
木の幹についても同様だ。
不自然な部分がない。
「そんな訳ないじゃない!絶対この木に、何かあるはずなのよ!」
アリスは木に文句を言い始めた。
そして木の幹をひっつかみ、ぶんぶんと振り回す。
軽い木ではない。樹齢は100年はありそうな太い幹がゆっさゆっさと揺れている。
その非現実な力技の光景を目にして、ぼうっとしていたら、ドンと衝撃が走った。
地面がグラグラと揺れて、俺は力が入らずに地面に倒れた。
受け身も取れず、顔面から草のぼうぼうと生える地面へとぶつかる。
「新川さん!」
慌てるミコさんの声が、遠くから聞こえた。
そして俺の意識は暗闇に呑まれた。
*
「ん……、ここは……」
目を開けて、周りを見る。
すぐに見慣れた馬車の中だと気づく。
「新川さん、目が覚めましたか?」
やけに近くでミコさんの声が聞こえる。
しかも何だろうこの俺が枕にしている柔らかいものは。
「新川さん?」
「あ、ああ、だいじょ……」
ミコさんの声がする方に顔を向けた所で気が付いた。
俺がミコさんに膝枕してもらっているという事に。
「ちょ……!うわっ!」
急いでミコさんから離れようとしてしまったがために、馬車の床に転がり落ちてしまった。
「新川さん!大丈夫ですか」
首の後ろが痛いけれど我慢して、「大丈夫」と言った。
立ち上がって、くらくらとする頭を押さえる。
「えっと、何があったんだ……っけ……。確か木をアリスが揺らし始めて、その後なんか大きな音がして……?」
覚えている所まで、記憶を探りながら声に出す。
「えっと……、それはですね……」
何か言い辛そうに、ミコさんは口籠る。
その時、バンと馬車の扉が開く。
「起きたのね!死んだかと思ってびっくりしたわ!やっぱりレベル1なのね。防御力が、ごみね!」
凄いハイテンションなアリスが、扉前でまくし立てた。
「何の話だよ。俺が気絶した理由が分かっているのか?」
防御力がどうとかいっているから、まさかダークナイト・グランドが俺を殺そうとしてきたとか、そういう事か?
そうだとしたら、よく生き残れたな。
ダークナイト・グランドの攻撃に耐えるなんて、意外に自分は頑丈だったのか?
「見なさい!これがあんたの頭に当たったのよ!」
そして一本の小枝を見せてくる。
太くも重くもなさそうな、30センチくらいの細い枝だ。
「なんだそれ?」
「だから、あんたを気絶させたものよ」
「嘘だろ……」
ミコさんに視線を向けて、本当かと目だけ聞いてみる。
「えっと、本当です……。そのそれが落ちてきて、頭に当たって……」
「まじかよ」
実際に何かが当たったことは、今までなかったけど、甘かった。
「っていうか、それが本当なら、俺が気絶したのはお前が原因じゃないか!もうちょっと悪びれろよ。自慢げにそんなもの見せてくるなよ」
「それもそうね。ごめん、木を揺らしただけで死ぬなんて思わなくて!」
「死んではないけどな……」
なんかパンと手を合わせて、軽く謝ってくる。
「俺の今後が、マジで心配だわ。これだと教会で女神の祝福を解除する前に死にかねないぞ!」
「そうね、死にかねないわね。これからの魔王の幹部との戦いはどうしましょうか?ミコがいる時に必ずしもいる訳ではないし」
この人は魔王の幹部と戦わないという選択肢は取らないらしい。
ダークナイト・グランド以外には知らないけど。
いや、そういえば、ロックジャイアントがいたな。
「それで、ダークナイト・グランドの手掛かりはあったか?」
「何もなし。何か新しい魔法を手に入れたと考えるべきなのかしらね」
「協力者とかがいるのではありませんか?その方に手伝ってもらっているというのは」
ミコさんが協力者について提案する。
「戦いに参加していない理由が分からないわね。それにこれだけ時間が経ったんだもの。もう逃げられたと考えるしかないわね」
アリスは大きく伸びをして、もう帰る気分になっている。
言う通り、ダークナイト・グランドを見失ってからもうかなり時間が経っているから、逃げられているんだろうけど、それは本当だろうか。
森の中の事に詳しいエルフから、何日も隠れて、逃げ続けるなんてことができているのは、何故だろうか。
協力者がいるから?
だとしたらその協力者っていうのは、誰だろうか?
こんな風に何日も隠し続けられる隠れ家を準備できる魔物とは?
その時、はっと頭にある考えが思いついた。
「アリス、ミコさん、考えがあるんだけど聞いてくれないか」
ダークナイト・グランドはきっとこの近くにいる。
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