作戦会議(スキル)
「三日前、占いによって、この里に暗い影が迫っていることが判明しました」
ミコさんが話し始める。
「ここはユグドラシルを守る隠れ里。ですから、ユグドラシルを守るために偵察隊を編成して、周囲に何か変化はないかと気にかけていたわけです。それで……」
「そこに私たちが来たっていう訳ね。何で隠れ里から外に出ないエルフたちが、あんなに遠くの方まで来ているのかと思っていたけど、そういう理由があったのね」
「はい。それで、アリスたちが遭遇したというダークナイト・グランド。それが占いの暗い影ではないかと、考えています」
「それで黒い影が何をしようとしているのか分かっているの?」
アリスが問いかけると、ミコは首を横に振った。
「分かりません。魔王の幹部の一人という大物である以上ろくなことではないと思われます」
「そうね。でももう一体来ていたのよ、魔王の幹部が」
「まさか。二体も来ているのですか。誰ですか?」
ミコは一際驚いて、アリスに尋ねた。
「ロックジャイアントよ。でも私と新川で倒したわ。だからそっちは何も問題ないと思うわ」
「なんと、また倒したのですね。本当にお強い」
「そんなことないわよ。新川のおかげよ」
アリスが軽く俺の肩を叩く。
「そうなんですか?」
「いや、俺なんて何にもしていないよ」
「そんな事はないわよ。作戦を立てて、私に武器をくれたのよ。それに一緒に戦ったわ」
「まぁ、それは……。さぞや、名のある冒険者なのでしょう?」
ミコが俺に聞いてくるけど、俺は首を振った。
「いや、全然。ただ立ち会っただけだよ。それに俺はレベル1だし……」
「レベル1?御冗談でしょう?」
「冗談じゃないんだよ。信じられないかもしれないけど、このステータスカードを見てもらってもいい」
懐からステータスカードを渡す。
「まぁ、本当ですね。レベル1とあります。よく生き残れましたね」
まず俺の心配をしてくれるミコさんの優しさが心に染みる。
「いや、無我夢中で運よく生き残っただけです」
「魔王の幹部との戦いで偶然や運なんてありませんよ。ロックジャイアントを倒せたのは、新川さんの実力ですよ」
「ミコさん、ありがとうございます」
「そんな事より、ダークナイト・グランドとロックジャイアントが二人いるということの理由について、ミコは思い浮かばないの?」
「やはり、ユグドラシルかと……」
ユグドラシルは、あの大きな樹の事だ。
「ユグドラシルって、そんなに大事なモノなんですか?」
俺は巫女に尋ねた。
「ええ、とても大事なものです。この世界を守っているのです。ユグドラシルを倒されたら、恐ろしい事が起こります」
「大変な事とは?」
「それは……、分かりません」
ミコさんは首を振った。
「なら、何故ユグドラシルを狙うのか、調べることはできますか?」
「書庫にならあるかもしれません」
俺がそのまま続けようとしたが、「そんな事より、どうやってダークナイト・グランドを倒すか考えましょう」とアリスが口をはさんだ。
「そうですね。まずはどう対処するか考えないと、里の中を戦場にしたくはありません」
ミコさんがアリスの言葉に続ける。
「まずダークナイト・グランドって、どういうやつなんだ。強いのか?」
俺が二人に聞くと、「はい。もちろん。強いですよ」とミコさんが言った。
「魔王幹部というだけで、4桁のレベルは確実です。私の記憶では、4000後半と聞いていますが」
「そうね。2,3年前にダークナイトの軍を率いて、大攻勢をかけてきたときが、そのレベルだったわ。私も参加していたから覚えている。その大攻勢で第三防衛拠点まで攻め込まれたけど、兄さんの策によってダークナイトの軍勢の多くを失って撤退してから、それからは見かけていないわ」
「撤退させたってことは、勝ったってことか。なら、その時と同じようにすれば」
「無理よ。兄の作戦は、農耕地の地面が柔らかい所に誘導して、重い鎧をきたダークナイトたちの動きを鈍らせて、軽装させた軍で各個撃破していったのよ。それに一度受けた策がもう一度成功するとは思えないわ」
森の中だし地面が柔らかい事は柔らかいけど、耕されている所ほどとはならないだろう。
「それにダークナイト・グランドは、私と兄、そして軍隊で追いながら戦ったけど、倒しきれなくて逃げられたのよ。とても強いわ」
「そ、そうなのか。だったら、どうやって倒すつもりなんだ?」
「私の不意打ちのプロミネンス・エクスプロージョン・セイバーが決まったわ。傷ついているはず、だから先手必勝よ。こちらから、ねぐらを探し出して攻撃するの。それなら、こちらに有利に戦えるはずよ」
アリスが語るのは、こちらから攻め込むという作戦だ。
「それで本当に大丈夫なのか。強いのは分かるけど、それで倒せるのか。聞いていると、相当強いんだろ」
「そこなのよね。追い詰められるのか分からないの」
深刻な顔でアリスが考え込む。
「レベルが高いと言っても、4000後半なら、レベル6000で倒せるよな。ロックジャイアントよりは強いし、苦戦はするかもしれないけど」
俺はアリスに尋ねる。
「もちろんレベル6000は強いですが、ステータスとしての強さです。それだけで確実に倒せるという訳ではないのですよ」
そうミコさんが答えた。
「スキルというものが、レベルを上がることによって手に入ります。それもとても重要なんですよ」
「スキルか。アリスさんが使っていた『プロミネンス・エクスプロージョン・セイバー』というやつか?」
「もちろん、そのような魔法も含みますけど、『剣操作』や『魔力量増加』などの常に影響を受けるものや特定の相手に強くなるような『対悪魔』みたいなものもありますよ。そのスキルの構成や強さなどでも、影響があるのですよ」
「そうだったのか。4000だったら、それだけ多くのスキルを持っていると考えないといけないのか」
「その通りです。特に魔王の幹部になるほどですので、特に強いスキルを持っているでしょう」
「なるほど。どんなスキルを持っているのか、分かっているのか?」
アリスに聞くと、「分かっているわ。もしレベルがさらに上がっていたら、知らないものもあるかもしれないけれど」と言った。
これは心強い。
相手がどんなスキルを持っているのか分かっていれば、うまく立ち回ることができるだろう。
「ダークナイト・グランドは戦闘の巧者よ。だから戦闘になった場合、私も押し負ける可能性があるの。ロックジャイアントみたいな戦い方はできないわ」
「それって?」
「あんたを遠くに逃がせないじゃない。あの時は馬車で逃げながらできたけど、今回は誰かが戦いの中で守らなきゃ」
「死んだら、それなりに困るじゃない?」
「何で疑問形なんだよ。問題点は俺かよ。俺の剣以外の剣ってないのか?」
ミコさんに向かって尋ねるが、首を横に振られた。
「私たちエルフは、金属製のものを好みません。だからアリスに見合うものは見つけられないでしょう」
そういえば、ここに来るまでにあったエルフも弓矢や細長い棒で戦っていたな。
「つまり俺の剣以外は、まともな武器はないと……」
「そうなりますね」
またあの死と隣り合わせの戦いに行かないといけないのか、しかも今回は逃げる暇がないときた。
「エルフたちは、どうなんだ。エルフたちに守ってもらえば……」
「エルフはその性格上、ハンターや魔法使いのような戦いをするの。ハンターとして隠密行動からの射撃は得意だけど、ダークナイト・グランドは鎧が固すぎて通じないわ。逆に魔法使いとしての攻撃魔法は当たればダメージは与えられるけど、それまで待ってくれるほどダークナイト・グランドは馬鹿じゃない。先に、潰されておしまいだわ。特に今回は私一人だし……。仮に高い魔力に任せて、魔法のバリアを使ってもそこまで万能ではないのよ。本来不意の攻撃を防いだり、相手の攻撃魔法に合わせて使う物なのよ」
「じゃあ、俺は自分で身を守らないといけないのか?無茶言うなよ」
「だから困っているんじゃない」
アリスが肩をすくめる。
「だったら、もう王様に助けてくれっていうしかないんじゃないのか?せめて剣を持ってきてくれみたいに」
「それは私が嫌なのよね」
「我が儘かよ」
さらに詰め寄ろうと息を吸うと、「あの、私からもお願いします。アリスの思いを尊重していただけないでしょうか」とミコさんが横から口をはさんできた。
「いや、だけど、話を聞いていただろ。こいつだけじゃ、ダークナイト・グランドは倒せないし、俺もレベル1だから守れる人がいないと戦いに参加できない」
ミコさんが自分の胸に手を当てて、「私なら守れます」と言った。
「ミコさんが?」
「ミコ……、良いの?」
「はい。私は植物魔法を持っています!この魔法は私しか持っていませんし、私だけにしか使えません!この力なら、新川さんを守れます!」
何故か強く訴えかけてくる。
「ミコ様、それはいけません。あなたに何かあれば!」
「ガリア、もしダークナイト・グランドを倒せなければ、同じことです。現状、倒すことができるのは、この方たちだけ。ならば手伝うのは、何も問題はないはずです」
「それは……、そうですが」
ガリアさんはさっきまで離れていたけど、俺たちの所にきて近くに座った。
「ミコ様はこの隠れ里に必要なんです。それをそんな危険な場所に行かないといけないなんて。私たちが新川さんを守れば良いのでしょう。それなら私たちがすればいいだけです」
「魔物と戦うのとはまた違うのよ、魔王の幹部との戦いは。エルフの今の装備では心もとないわ。でもミコは違う。そうでしょう」
「ぐっ……それは……」
ガリアさんは黙って唸る。
「問題ないわ。ミコなら大丈夫よ。それに私も守るわ」
「ガリア、これが最善の手なのよ。お願い、許して」
アリスとミコの訴えに、ガリアさんはムムムと唸る。
そしてガリガリと頭を掻きむしり、「分かりました!」と言った。
「その代わり、私もついていきます。私が同行することが条件です」とガリアさんが折れる。
そして俺たち、4人のダークナイト・グランド討伐が始まった。
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