第6話③

「そのままの意味ですよ、楠本さん。国王が国を捨てるということ、それはすなわちその国に暮らす大勢の民衆を見捨てたということです。」

「ちがう、国王はそんなことしたかったんじゃない。ルイさんが逃げ出した理由はきっと、ただただ守りたかっただけなんだよ。」

「それがだめなんですよ。あなた、頭悪いね。

 国の王たるもの、自分よりも何よりも国を優先する人でなければならないんです!自分の保身ばかり考えているようではいけないんです!あなたは国を治めたことがないでしょう?私はこう見えて有名な政治家なんです。未来から来たって言ってましたよね。きっと歴史で私のことも勉強するんじゃないですか。ロベスピエール。聞いたことあるでしょ?」

「頭悪くて悪かったわね。でも、私はこれでも大切なものと大切じゃないものの分け方くらいは分かってるつもりよ。大切なのは人間。モノじゃない。人間が一番大事なんだってわかってる。それに、人間はみんな、自分が一番大切なの。一番大切な自分は自分で守る。そういうものだと思ってる。」

「それでは社会は成立しないんじゃないですか?社会のにとって良いことはなにか、それを一番に考える職業が政治家です。私はそれを忠実に守っているつもりです。

 それに、その考え方を私に教えてくれたのは、ほかでもないルイ16世殿下なんですよ!

 私は王に失望しました。高尚な考えを持ち、何よりも、そして誰よりもこのフランスのためを思っている素晴らしい方だとずっと思ってきた。それなのに、それなのに、殿下は……。」

 ロべスの目から、はらりと水滴が零れ落ちた。

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