第10話 新生活

私のすべてだった進学校の制服を脱ぎ、

通信制高校に編入した私。

学校を変えても、私の心の辛さは変わらなかった。

そんな私にも、一つだけ目標があった。

同級生と同じタイミングで進学する事。

そのためだけに頑張った。

しかし、現実はそう甘くはなく、

その目標は叶えられそうになかった。

そこで、三か月ぶりに前の高校の先生に連絡をした。

「困った事や、辛い事があったら、

いつでも頼ってくれていいからね。」

やめる時にそう言ってもらっていた。

自分の現状を話すと、

高卒認定試験を勧められた。


悩んだ結果、高卒認定試験を受ける事にした。

受からなければ後がないというプレッシャーと、同時に、

何も頑張れそうになかった自分が、

ここまで真剣になって、何かに取り組もうと思えた事に

喜びを感じていた。


試験をおよそ二か月後に控えた、五月の下旬。

祖父が亡くなった。

事故だった。

お正月に会ったときは、あんなに元気にしていた祖父が、

突然帰らぬ人となった事、

今も心のどこかで、嘘なんじゃないかと思っている。

大切な人を失うのは、これで五度目。

一度目は、愛犬。

急死だった。

朝起きたら泡を吹いて倒れていた。

病院に行ったが、そのまま亡くなった。

二度目は、母方の祖父。

病死だった。

最後まで苦しんでいた姿が、頭に焼き付いていて、

たまに夢に見る。

三度目は、母方の曾祖母。

百歳まで生きていた。

寿命で亡くなった。とても優しい人だった。

四度目は、母。

亡くなったわけではないし、

今でも会ったりするし、遺伝子上では私の母に変わりはないが、

戸籍上ではもう家族ではない。

母が出て行ったあの日、私の中で一度、

母という存在は消えた。

そして五度目、父方の祖父。

この世界に存在する人の中で、

一番尊敬していた。

寡黙な人で、多くは語らなかったが、

いつも温かく見守ってくれていた。


傷は癒えないまま、試験本番を迎えた。

自信はなかったがベストを尽くせた。

三週間後、合格通知が届いた。

父も、祖母も、泣いて喜んでくれた。

色々な人たちが、私より喜んでくれて、嬉しかった。

そして、とんとん拍子で、専門学校にも受かった。


来年の四月から、新しい生活が始まる。

楽しみな反面、とても不安だ。

だが、この先、躓く事があったとしても、

自分一人で起き上がれるように、成長していきたいと思っている。

この十八年間、

楽しい事より、辛い事のほうが多かった。

しかし、父と母のもとに生まれたから、

今の幸せがあるんだと、そう思う。

嫌な事も、生まれてこなきゃよかったと思う事も、

たくさんあったが、ここまで立派に育ててもらえた事、

心から感謝している。

そして、私を支えてくださった、全ての方々にも、

心から感謝している。


自分から変わろうとせず、

現状に対して、言い訳ばかりし、

嘆く事しかできない自分が、

何よりも、誰よりも、大嫌いだけれど、

たくさんの事を学び、

少しずつ変わっていきたい。

そしていつか、自分の事を好きになりたい。

そう思っている。


すぐには難しいかもしれないが、

支えてくださった方々に、

恥じないような生き方をしたい。

まだまだこの先も人生は続くが、

精一杯生きて行こうと思う。




‐完‐







<あとがき>


最後まで読んでくださったあなた様へ、

心より感謝申し上げます。

疑問点など、多々あるかと思いますが、

そういうものとして解釈していただければと思います。

落ちが弱くて申し訳ございません。

それでも、あなた様の心の片隅に、

私の想いが残っていれば幸いです。

読んでくださったあなた様のこれからの人生が、

幸多からん事を心よりお祈り申し上げます。

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幸せですがそれなりに不幸せです 神代 琴葉 @kotoha01

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