第8話 味方

母からもらった手紙の中には、

「傷つけてごめんね」

「人の気持ちのわかる心優しい娘に育ってくれて幸せです」

「自分の思い描く未来を手に入れてほしい」

そんなことが書いてあった。

母親ではなく一人の女性として生きる事を選んだ母。

しかし、最後の日まで、母として接してくれた。

今まで、大切にされていないと思っていたのは私だけだった。

自分の事ばかりで、目の前にある日常を当たり前だと思い、

それがどれだけ幸せな事なのか気付けなかった。

母の偉大さに、母がいなくなってから気が付いても遅かった。

やり直せるのであれば、一からもう一度やり直したいと強く思った。

叶う事のない願いだけれど。


学校に行くと、友達が、

「お母さんと○○に行ってきて家に帰ってご飯一緒に食べたんだ~。」

だとか、

「お母さんと喧嘩したんだよね。ほんとむかつく。」

だとか、嫌でも耳に入ってきた。

私は、お母さんと同じ家に帰ることはもう二度とないし、

喧嘩もきっとできない。

それがわかっていたから、辛かった。

同時に、友達がうらやましかった。


七月、また学校に行けなくなった。

分散登校が終わり、通常登校になった途端に、

人に囲まれるのが怖くなった。

教室に入れなくなった。

校門をくぐるのが怖くなった。

自分の部屋から出るのも、

家族と顔を合わせるのも、全てが怖くなった。

何も頑張れない、誰かの負担にしかなれない、

そんな自分が大嫌いになった。


学校の先生にお話をしようと言われたので、

久しぶりに学校に行く事になった。

生徒が下校した後の午後四時半に制服に着替え、

学校へ向かった。

そこで全てを話した。

学校に行くのでさえ苦しい事。

両親の離婚に関して責任を感じている事。

自傷行為をしている事。

出来る事なら死んでしまいたい事。

泣きながら話した。

辛かったねとただその一言だけを言い、

私が落ち着くまでそばにいてくれた。

心療内科やカウンセリング、色々な手段を使って、

私を助けようとしてくれた。

親御さんにも話そうと提案してくれたが、

それは出来ませんと言った。

そのまま家に帰りしばらくすると、父が大急ぎで帰ってきた。

先生が父に全部話したようだ。

泣きながら、父にも自分の気持ちを話した。

すると、

「離婚したのは××のせいじゃない。

だから、生きていてほしい。

学校に通わなくてもいい。ニートでもいい。

ただ生きていてくれればお父さんはそれだけでいい。」

そう言ってくれた。

その時の事は今でも鮮明に覚えている。

その一時間後に母が迎えに来てくれて、

しばらく母の家で過ごす事になった。

そこでも母から、あなたのせいじゃないと言われた。

生きてていいんだと思えるようになった。

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