第10話 弟

こちらに戻ってのこと。鉄道会社で働いていた弟が、お正月に遊びにきた。

気持ちの優しいお人好しだったそうだ。

お正月休みも、自分が休みだったにも関わらず、休みたい人のために交代してあげて、働きに出ることになった。その前に新年の挨拶に五十鈴のもとを訪ねた。

五十鈴としては、かわいい弟であるが、自分とは違い気の優しさなど、姑などの手前、ちょっとしたことも気になったのかもしれない。

弟が「お餅をもう一つ食べたい」と、珍しく主張したのだが、何かにカチンときた五十鈴は焼いていたお餅を庭に放り投げ、「はい、どーぞ!」と言い放ったそうだ。


そのまま、仕事に向かった弟は、電車の点検中に電車と電車に挟まれる事故に遭い、命を落としたのだった。


五十鈴には後悔しかなかった。

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五十鈴のこと @chiii-yae

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