第4話 淡い思い出

田舎の家庭にしては、父が教育熱心だったため、その頃のそのあたりの女子には珍しく、女学校に進学した。今でも車で小1時間かかるほどの距離を当時はなかなか大変だっただろう。

年ごろの五十鈴は、やはり凛とした立ち居振る舞いで勉強も運動もできて、一目置かれる存在だったようだ。

女学生時代、異性からのアプローチもいくつかあった。その中でも、帝大生からのラブレターは家の額縁の裏に隠しておいたのを、父に見つかり大目玉。青年の渾身のアプローチは儚く破り捨てられた。

とても純粋な青年とうかがえた。

ほのぼのする手紙だったが、すっかり忘れて思い出せない。蟻になぞらえた文章だった。

「大きな木の下にアリが2匹いる。1匹があなたで、もう1匹が僕…」といったような感じだったような…

そんな恋も、嫁入り前の娘には言語道断だったのだろう。そもそも五十鈴も、それほど浮かれてはいなかったのかもしれない。

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