第11話 ロザリンダ嬢の幸せと殿下の決意

 あのあと、王妃様のお茶会で陛下にもお目にかかり、話はトントン拍子に進んだ。


 結婚式の日は快晴で、大勢の見物が出た。


 クリスときたら、素晴らしかった。

 だんな様より注目を集めてしまって、困ったわ。


 でも、公爵家から私を送り出しするのはクリスしかいない。


「姉様、幸せになって」


 なんだかクリスが切なそうだわ。


「あなたの結婚が決まっていれば、こんなに心残りではないのだけど」


「俺のことはいいですよ。姉様さえ、幸せなら」


 私はびっくりした。


 だってクリスは今まで、自分のこと、僕って言い続けていた。


 そうか。

 クリスも成長したのね。


 婚約の確認から結婚式までは、やっぱり一年ほどかかってしまった。


 クリスからは、もう少年ぽさは少なくなって、一人前の男になっていた。


「さよなら、姉様」


 クリスが頬にキスした時、ざらっとヒゲが当たった。


 ああ、本当にもう子どもではない。


 かわいい弟。


 一人前の大人になっても、弟は弟。家族の一人。


 私に子どもが生まれたら、あなたには甥や姪が出来るのよ。




「大丈夫さ。ヤツはしぶとくて、厚かましい」


 夫が苦々しげに言った。一体、クリスとの間に何があったの?


「あいつのことは、これから、王家のためにコキ使うつもりだ。その意味では、あんな上玉はいない。ロザリンダが僕の妻である限り、人質みたいなものさ」


「ええ?」


「それから、セバスもだ。セバスとは連絡をとってるんだ。クリスには、いい嫁を斡旋あっせんするつもりだ」


 それは、ありがたいけど。


「私も、あなたのために頑張りますわ」


「うん。あなたはいつだって、誰かのために頑張る人だ。わかってる」


 彼はパレードの途中で大っぴらにキスした。

 周り中の観衆が大声ではやし立てて、何も聞こえなくなってしまう。


「クリスに言われたんだ。姉様は自分の幸せを忘れてしまう人だって。人にばかり尽くして。だから、王妃や王太子妃なんかには不向きだって。きっと不幸せになる、間違いないって」


「なに? 何言ってるの? フィリップ」


「絶対に幸せにするよ。僕が守る」


 ヤツは嫌がらせで言ってるだけだ。


 だけど、たまには真実が混じる。


 ロザリンダはそう言う人だ。


 自分より他人が先。


 あの弟が飛んでくるようなことにはさせない。


「大事にするよ」


 殿下はもう一度妻にキスした。


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ロザリンダ嬢の憂鬱〜手紙も来ない buchi @buchi_07

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