移住者の子孫の家業

 わたしは「呉人くれひと」とよばれてきた。これは個人名ではなく、同族で共有された名まえだ。先祖が中国南部の、むかし「」の国だったところから来たからだ。わたしの先祖は、中国の南朝の陳王朝のもとに住んでいて、陳が隋にほろぼされるとき、のがれて来て、日本に帰化した。朝廷から、漢語の能力をいかして外交の働きをしてほしいと要請されたのだが、隋とかかわることは固辞しつづけ、隋が唐にかわってから、官僚として働くようになった。中国南部からきた呉人の一族は、呉音の漢語を話す。仏教経典を読むときなど、呉音も役にたつことがある。しかし、外交では唐の標準語である漢音の漢語をつかわないといけないし、日本の官庁で働くためには、やまとのことばをつかわなければいけない。われわれ一族は、三つの言語を使いわける能力をきたえてきた。

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