二十二話「土と木」



「言いますねぇ。私も大概焦ってるんですよ?貴方も焦るのが道理と言うもんでしょう?」


「そんな他の道理が引っ込むような道理は知らないな。だが、お前が焦っていると言うのか。それは嬉しい知らせだ。」



そう言うと鵺は羽毛を持った山椒魚のような形になり、雷雲を足場にしその場所からタチガミをにらみつけた。



「雷獣らしい姿も取れるんですね。それで何が変わるのかは知りませんが。」



タチガミの、その言葉を聞いた鵺は口角を上げた後に、黒々とした曇天に向かって遠吠えをした。するとどうだろうか。空一面に広がる雷雲からタチガミに向かって轟々とした、はたた神の思し召し――即ち稲妻が降りてきた。当然タチガミは何重にも結界を貼り、すべてを受けきった。ただ、その稲妻の余りの数と強大さに流石のタチガミも難色を示す。



「なるほど、思った以上に変わるんですね。如何せん中々どうして手厳しい。流石大妖怪と呼ばれる所でしょうか。」



何を言おうとも鵺の猛攻は止まらない。圧倒的な力を前にして、神とは言え元は一介の付喪神に過ぎないタチガミは当然苦戦を強いられる。自らが攻勢に出る事は絶望的な中、何か打開策が無いかとタチガミは考える。しかし長考むなしく大した案はでてこなかった。



(よもやお手上げ、どうしようもありませんね。取り敢えず時間だけは稼いでおきますか。さて、お二方がその者を討つのは大して時間は掛からないでしょうが、そのまま今日を離れるためにどうしたものでしょうか。)



鵺を倒すなど不可能とし、新しく次の事を考えるタチガミ。ただ、そんな折タチガミに何かがぶつかった。蛇と、木簡だ、タチガミは飛んできた木簡に目をやり、そこにある文字を読み取った。曰く「亡骸は確保した、私等は羅城門で待ってる。そして助けも読んでおいた。それまでその蛇の加護でも受けて時間を稼いでくれ。」



(全く、簡単に言ってくれますね。ただ、どうにも有難い!これなら目の前にある人の恐怖を打ち倒す事も視野に入る!)



蛇は足から体を伝っていつの間にかタチガミの肩にまで登っていた。結界を貼る事以外に割ける余力も少ない中、タチガミは訊いた。



「――私に加護を与えて下さいますか?豊穣、そして風の神、タケミナカタ様。」



彼の蛇はそれを聞き入れたのだろうか。恐らく聞き入れたのだろう。タケミナカタの加護によりタチガミの結界は変化した。単純な神や妖怪としての力で生み出されていた結界が土の元素を持つようになったのだ。



「感謝します。」



雷は木の元素を持ち本来ならば土を打ち消す有利な元素だが、大国主命の子が使う元素と鵺の扱う元素では力の強さが違う。故にこの場においては土の元素が木の元素を剋しタチガミはより少ない結界の枚数で雷を受けきることが出来るようになった。そうして余裕の生まれたタチガミは少しづつ攻勢に出て行った。ただ、当然ながら鵺も折角の優勢を覆されまいと、稲妻に加えて最初の方のような突進も織り交ぜ攻撃をする。実力の拮抗した戦い。少しでも崩れた方が負ける。双方とも隙を見せまいと、タチガミは攻撃結界と防御結界を使い分け、鵺は稲妻と突進を使う。そうした代わり映えの無い泥沼の戦いが暫く続いた。しかしある時分でタチガミがこの戦いを動かそうと大攻勢に出た。しかしその攻撃はすべて外れ鵺は一度に仕える結界を使い切ったであろうタチガミに突進をした。だがタチガミがそんなことを予期していないはずが無い。残されていた一枚の防御結界をはりその攻撃を受け止めた。



「さあ、ご覚悟下さい!」



タチガミが錫杖を振り下ろそうとしたその時、一筋の稲妻が無防備なタチガミを貫いた。鵺は再び口角を上げ、天へ舞い上がった。そうして止めの稲妻を放つ、稲妻がタチガミを貫かんとするその刹那――



「魔力配列!陰木『雷』!」



地上から天へと上がる雷によって鵺の稲妻は相殺された。

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