幕間「歴史の違和」

「――一人の少女に学会の前提がひっくり返される。そんあ事があると言うのか?」


「滅多んない事だろさ、だがその可能性が一番大会高いんさ。ワタシも腑に落った。」



少し変わった訛りのこの辺りでは見慣れない金髪で長髪の女と初老の男が巻物を整理しながら話している。



「確かに腑には落ちる。なんてたって人の息が掛かった者で魔力の扱いにおいての右に出る者はいない君が動かせない物なんだ。だったらその異物は余りにも高度なものなのか、研究が間違ってるかの二択になる。普通に考えれば前者の可能性の方が高いんだが。今回の件は驚きが隠せない。」


「たとえ動かせる物でも非効率的な物が多いから、やってて違和感覚えたんね。」


「全く、君のお陰で研究が進んだと思ったらまた振り出しか。」



男は溜息をつく。それを見て女は。



「仕方ないさ、真実に向かうの学問、その為には莫大な時間がいる。その中で前提がひっくり返る事もあるだろう。」


「仰る通りで。まあ、一番大変なのは前提がひっくり返った事実をどう扱うかだ。今回は人間だけでなく魔族にも大きな影響を与える。もう少し理論と証拠の基盤を整えるべきだろう。今のままじゃあくまでもその可能性が捨てられないだけだ。」


「そうなね。んじゃどうするんだ?」


「その少女にやらせようじゃないか。わし等だってそう簡単に今までの研究を捨て去る事とはできん。確たる証拠をつかませてわし等の間違いを証明させる、その時初めて前提と言う物が覆るんだ。」


「子供に危険を冒させるのかさ?」



彼女は少しむっとした。



「その為の君だろう。魔術の理論と感覚を叩き込んで最低限戦えるようにするんだ。大体中堅の鬼と渡り合えるぐらいで十分だ、何年かかる?」



その言葉を聞いてほっとした後、彼女は口角を上げてこういった。



「残念ながら数か月しかかからなず。彼女は理論の方は既に結構触ってるんさ。」


「それは本当か?!歳は十三だろう?!」


「独学でそこまで持っていったらし。親族にそういう縁があるそう。あた使い方教えるだけさ。」


「魔術学会の方につながりがある娘なのか?だとしたらまあ不思議じゃないな。それと魔術学会では陰術は触らないが陽術の方は割と進んでるはずだ。だから陰術と陰陽五行の組み合わせを重点的に教えてやれ。」


「分かった。」



所変わって都の王宮すぐ近くの学会棟。端居霞子は巻物を読んでいた。



(うん、何度読んでも違和感を覚える。最古代の遺物は人間の物とされているのに何で魔族からの魔法の流入は近代なのか、いくら人間がある程度魔法を扱えるとはいえどう考えても最上位の魔族が操るぐらいの魔法でないと動かせないものが多すぎる。)



元来天才とは他人とは視点が違うのだ。霞子は魔術学会に属す親族から幼少の頃より魔術を教わっていたため、考古学を始めた時には周りと比べて数年進んだ魔法理論を形成していた。だからこそ魔法の組み方の難しさを理解してた。それが今日の違和感につながったのだ。そしてその違和感を言語化するのもまた天才の所業であろう。この程度違和感今まで誰も覚えなかったはずもない。しかしその違和感の正体を突き止め他人に伝えたのは彼女が初めてだった。故に彼女は現在考古学会を困らせているのだ。



(暴いて見せよう、この世界に秘匿された歴史を、古代の遺物の真の用法を、今まで誰も知りえなかった太古の神秘を!)





――大江山で宴会を終え今から都へ赴こうとする三柱。



(―ッ!?)



その時吞乃は背中に冷たいものを感じた。自身の失ってしまいたい過去を無理に開かれるような。そんな悪い予感がしたのだ。



(……都に着いたらアイツに学会の様子を聞いて見るか。)

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