十六話「都」



あいにくの雨天の中三柱は山を出た。タチガミにとってはともかく、水を司る吞乃と薬師にとっては自身の力の増す喜ばしい天候だ。この世界で生きる上での存在の第一歩を踏み出した彼にとってこの上ない出発の天候だろう。



「さて、それじゃ都に向かうとしようか。」


「そうですね。私は雨天があまり好きではありませんが。一応鉄器で刃物ですからね。」


「はは、言ってろ。どうせ血に塗れるさ。大した違いはないだろう。」



自身の苦手な雨の中出発するのを遠回りに避けるように言うタチガミ吞が乃に一蹴されるようにして三柱は都に向かった。



「そういえば狐が死んだことの責任ってどうやって取るんだ?」



狐と鬼の戦の間ずっと蚊帳の外で何も知ることが無かった薬師がここで吞乃に尋ねる。



「ああ。それはだな、狐を殺した人間を探すんだ、代々族長を殺した者の遺体を次の狐の長に喰わせることで狐の社会は回ってるんだ。で、その殺した奴を見つけて遺体を作りに行くのが私達の目的って訳だ。」


「狐を殺しに来た部隊が帰ってくるまで時間があるお陰で大江山に遊びに行けたわけですね。」


「それってあまり急ぎの用事じゃあ無くない?最初急ぐべき要件だって言ってたよね?」


「え?そんなこと言ったっけ?」


「吞乃さんは感情的だから玉藻前が死んだことがショックで何も考えずに行ったんだと思いますよ。割とそういう事多いですし。」



何も覚えていない吞乃に対し呆れ気味にタチガミが言う。



「ま、まあそんな事より。タチガミ人間の部隊は今どの辺りに居る?」


(あっ、話そらした。)


「そうですね、薬師が人を食った当たりの時間にちょうど山に入る前に訪れた村で部隊が休息をとる予定だったので、私達よりも少し後ろですかね?」


「まあ悪くない時間だな。多分向こうでも何が起きる訳ではないだろう。この曇点が奴の仕業でなければだが。」


「雷雨ではありませんしその可能性は低いと思いますが?」


(奴って誰だ?)


「いやしかしな。アイツは玉藻前が死んだことを知るのって順当に考えて今日明日なんだよな、それでこっちに暴れに来そうな気がしてな。」


「ちょっと待ってください、なんでそのことを今言うんです?嫌ですよ?彼の相手するの」


(タチガミにそう言わせるって相当な妖怪だったり神だったりなんだろうな。)


「いや、今言ったと言うか今気づいた。なんか引っかかるものがあると思ってたんだがこのことだったんだなあ。」



しみじみと言う吞乃にタチガミは少し呆れ気味だ。ただ三柱の足取りは重たくはなかった。


そうして都を取り囲む壁にある三つの門の内一つにたどり着いた。



「羅城門も大分綺麗になりましたねえ。剥げかけてた丹塗りも塗り直されてますし。」


「あの時に比べて戦乱も落ち着いたからな、人々の行動に余裕ができてきたんだろう。まあ、流石にもうこの門に人の亡骸が放って置かれる事はないだろうさ。」


「まあ、目標の反応次第じゃ私たちが引導を渡すために戦うので平和を乱しかねませんがね。」


「そうかもな。」


二柱は笑った。



(笑える話じゃないだろうに。)



どうにも彼は二柱に対する突っ込みを心の中にしまい込む癖があるようだ。




――その頃都の宮にて。御簾によって隠された皇の前で側近が口を開く。


「もうすぐ吞乃様ご一行がお越しなさるようです。」


「…そうか、分かった準備をしておいてくれ。」



皇のあまりに幼い声を側近は確実に聞き入れた。


「承りました、それでは失礼いたします。」


「くれぐれも失礼の無いように。」


「…心得ております。」

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