十三話「鬼の宿」

「さて、平蔵も帰ったことだし。タチガミ、首尾は?」


「特に変化は無しですね。まあそろそろじゃないですか?」



…?そろそろって何のことだ?



「ま、さっさと行きますか。大江山に挨拶行って次の日に都に着くぐらいだな。」


「ですね。…おっと、あんな所に鬼がおられる。」



本当だ近くの草むらに鬼が潜んでいる。そしてこっちには気付いてなさそうだ。



「こんにちは。この度はお世話になりに来ました。」


「うわッ!…なんだ吞乃様達でしたか。お越しいただきありがとうございます。お頭達が早くそこの新入りさんの顔が見たいと首を長くして待ってますよ。」


「それはそれは喜ばしい事です。」


「それでは俺たちは歓迎の準備があるのでこれで。」


「山では宜しく頼むよ。」



鬼に歓迎してもらえるとは元人間としては何と言うか不思議な気分だな。



「歓迎の準備か…俺は礼儀作法がなってないが大丈夫か?」


「問題ないさね。相手は鬼だぞ?お堅い作法を好むはずもないだろう?」


「確かに。じゃあ何か楽しみになって来たぞ!」


「ああ、存分に楽しむと言い。都の方では恐らくひと悶着あるだろうからな。」


「え!?ああ…そうなのね。まあ精々英気を養っておきますよ。」



マジかよ。物取りに行くだけって言ってたじゃん。…コノヤロー俺が驚いたの見てニヤニヤしやがって。



「そうだな、そうしときな。」



半笑いで話しかけてくる吞乃を無視して俺は大江山に向かった。



「まあそう怒るなって。ちょっとからかっただけじゃないか。」



もう山道だが、ここまでまで無視し続けたせいか心なしか不安になって来てるように見える。じゃあなんでさっきからかったんだよ。



「そんな事してる場合ですか。そろそろ鬼達の拠点が見えてきますよ。」



見かねたタチガミに突っ込まれたじゃん。まあ別にもうからかって件はどうでもいいが、不安がる吞乃が思いの外可愛かったのがね?さすがにもう鬼の拠点に入るかかこんな事はしないけど。



「お邪魔します。」


「邪魔するぞ。」


「失礼します。」



鬼の拠点は思ってたより簡素なもので建物というよりかはテントのあるキャンプ場のようなものだった。




「おお、吞乃さんか来てくれたこと感謝する!そしてお前が新顔だな!宜しく!」


「こ、こちらこそ宜しく。」



大柄な鬼の中だがそれよりも大きいそれはNBAの選手なんて優に超える体躯の鬼が話しかけてきた、角が生えタテガミのように毛の生えたその顔は童話絵本で見たあの「鬼」よりかは幾分人間に近かった。



「相変わらず開けた拠点だねぇ。いい加減屋敷を作ったらどうだい?あんた等ならそういう知り合いの一人や二人いるだろうに。」


「そんなこと言わないでくれ、大分古くからこの生活やってるんだから中々腰が上がらんのだよ。」


「まあその気持ちも分からんでもないがな。」



そういうのを怠惰って言うんやで。おっと、突っ込みどころが多すぎて心の底の関西人の魂が出てきてしまった。



「まあ、来てくれたんだし、宴会をするとしよう!茨城!吞乃さんたち来たから酒と食い物持ってきてくれ!」



そう言って女性の鬼と出てきたのは酒と、…皿に並々注がれた赤い液体の上に浮く人間の四肢だった。

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