都編
十一話「上洛」
「…何か事が動いたようですね。それもあんまり望まない方に。」
タチガミは腕と肩を繋げている最中の茨城に淡々とそう伝える。
「きっとそうだろうな。まあ、この場に吞乃さんが居るならば大丈夫だと思うが、アンタはどうする?」
「成り行きでなんとかしますよ。そちらこそどうするんです?」
「長居すると碌なことが起きないだろうからな早々に撤退すると思う。」
「そうですか。まあくれぐれも気を付けて、今何が起きてるか私にはわかりかねますので。」
「分かってるよ。それじゃあ件の伝言はしといてね。」
「当然、分かっていますよ。」
茨城が離れて少し後のこと、鬼達が撤退し始めた頃に深刻そうな顔をした吞乃が到着した。
「やっぱここに居たか、勘が当たって良かった。」
「よく考えたら落ち合う場所決めてませんでしたね。ああそうだ、事の顛末は?」
「玉藻前が殺された、人間によってな。」
「人間?人間が何故そこで出てくるんですか?」
「そうだな、私たちはこの争いの火種を知らなかったって事だ。」
その言葉を聞いてタチガミは少し不思議がったが、すぐに腑に落ちたようで。
「ああ、バレたんですね、正体が。」
「どういう事だ?」
「玉藻前は元々都で皇帝を誑かしてたんですよ。それがばれて人間に追われる身になたところで、追手と間違えて鬼を攻撃したんでしょう。」
「おそらくはそういう事だ。なんで都に居るはずの玉藻前がこっちに来てたのかもっとしっかり考えるべきだったな、私としたことが浅はかだった…」
「それで、これからどうします?」
先ほどまでの後悔の念が嘘かのように切り替えて吞乃は答える。
「…都に上がるとしよう、幸いなことに狐の次の長はほぼ決まってるようなもんだ。そいつに話をつけた後、京に上がって責任を取ろう。」
「責任?何の?」
「玉藻前が死んだことに対する責任だよ。いろんな一味がいる鬼と違って狐は殆ど一枚岩で長の交代を繰り返してる。んで、長の継承に必要なものを都に取りに行くんだ。」
「成程。」
「ある意味それで済む分茨城が死ぬよりはましだったかもしれませんね。」
「そんな事言うんじゃないよ。」
「…そうですね。」
珍しくタチガミの空気がほんの少しだけ真剣になった。
「それじゃあ今から狐の所に行くのか?」
「いや、そっちは多分後回しで良いだろう。力の関係上もうほぼ決まったことで面倒が起きるとは思えんし。都の方が急ぐべき要件だから先に都にいこう。」
(さっき先に話付けるって言ってたじゃねえか。)
「ああ、そういえば茨城が薬師を連れて訪ねて来いって言ってましたよ」
「お、そうか!じゃあ都に行く前に少し寄っていくか。」
(急ぐべき要件って…)
薬師の突っ込みは心の中で留まったまま外に出ることはなかった。
「そういえばモレヤ様に話をつけないのか?」
『あっ……』
二柱そろって声を出す。どうも完全に失念していたようだ。
「そんなんで大丈夫なのか?」
「まあ何とかなりますよ。」
「今まで割と適当だったからねぇ。」
「……」
完全に呆れている薬師を無視して二柱は諏訪大社へと向かった。
「――玉藻前が死んだか…んで京に上がるんだな。」
「その予定です。」
「ついでに京の皇帝にでも会うつもりさね。」
(そんなホイホイ会えるモンなのか?)
「そうか、じゃあコイツを連れていけ。」
そう言うと彼女は懐から小柄な蛇を取り出し吞乃たちへと遣わせた。
「この蛇は?」
「吾の知り合いの加護が乗った蛇だ。一応土着神である吾の眷属だが外に出ても何かしらは出来ると思う。」
「了解した。じゃあ私等は行かしてもらう。」
「そうだな、行ってこい。」
――三柱が去った後モレヤ神は山の麓を一望できる場所に来た。そこにある一つの木でできた墓標に酒を掛けながらつぶやく。
「あいつ等を頼んだ、何かあったら私に勝ったその力が泣くぞ、…建御名方よ。」
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