十話「終戦」

「やはり貴女方にはこれしかないですね。」


(嘘だろ?この感じ…妖力って祟りと同じ様に使えるのか!?)


「人間たちは私たちの妖力について何か分かっていない。分かっていないなら何ができても可笑しくないだろう?」


(心でも読んでるのか!?)


「表情が分かりやすい、この一点に尽きるな。」


「まあそうだな。んで、なんとも壮大な目くらましご苦労様。」


「案外余裕な物ですねぇ、頭数が減ったのに。」


「私が考えるのはどこまで力を温存するかだからアンタに負けることに関して憂う事は一切ないさね。」


「そんな事は分かってるんです。でも、私が動けない彼を連れて逃げる事だってできますよ。」



狐は薄ら笑いを浮かべている。そう簡単に触れさせてもらえない格上相手に対して不自然なほどに余裕で、不敵だ。



「そん時はそん時だね。」


「それはなんとも恐ろしい判断で。」


「皮肉屋だねえ。都に染まったかい?」



そう言った吞乃の背中に何者かが手をかけた。振り返るとそこにはもう一人の玉藻前が居た。



「そんなところですよ。」


「―成程ね。私ゃアンタを舐めてたね。お手上げだな。まさかここまで別の物の変化が上手いたぁね。狸の力でも借りたか?意外だな。」



少し皮肉を込めて、吞乃は微笑んで話す。



「確かに私等は自身以外の変化において狸ほど上手くありませんし、他に教えを乞う種族でもありません。が、残念ながら私程になると自力でこれぐらいの事は出来るんですよ。」


「その自力に私は負けたのか。」


「そうですね。まあ、妖力を入れきるまで時間がかかるので少しお話しをしてましょう。」


「あんまり長く待てないがそうしよう。なんだ昔によくあった話でもするか?」


「生きてる時代が違うじゃないですか。あんま聞いてていい気分じゃないんですよね。」


「そうか。じゃあ一つ質問だがアンタ最初はあれ程上手く自分以外の変化ができなかったと思うが?」


「それに関しては、最初に会った時から随分と間が空いてますので。」


「そうか、そういう物か。それと、もう大分話すのも難しくなってきた。そろそろじゃないか。」


「その割には饒舌な気がしますけども。」



そう言った後吞乃の体から力が抜けていき。狐はそれを確認して手を離した。



「…私が勝てたのは意外ですが、やはり相手の予想してない力は重要ですね。」


「そうだな。」


「!?」



急に狐の足が凍り付いた。背後には最初に抑えたはずの薬師が立っていた。



「確かに私は負けたし、体に力を流し込まれると動けなくなる。が、残念ながらソイツ程になるとそういう力に耐性をつけることが出来るんだよ。」



これ以上なく皮肉を込めて吞乃は笑う。



「成程、最初からこれを?」


「いや、薬師が倒れてから顔色が思いの外良かったから思いついた。まあちょっと前にモレヤ神の祟り受けといて狐に落とされるわけにはいかんわな。まあ、少し考えてはいたがモレヤ神の事含め全部偶然と言えば偶然だな。」


「初陣ではあったが初戦闘ではなかったという事ですか。」


「そういう事だ、取り敢えず足だけでなく手も拘束させてもらう。」



―吞乃が腕を抑えるために狐の前に回ろうとしたその時、どこからか矢が飛んできて彼女の頭に突き立てられた。



『!?』



吞乃と薬師の二柱は大きく動揺した。しかし狐は対照的に落ち着いている。



「まさか……ここまで来るとはな、やはり人間は執念深い…。」



そう最期に言って狐は事切れた。



(これは不味い!?仕方ない許せ狐!)



狐が逝ったことによって拘束が解けた吞乃は真っ先に鎌状の腕を振るい狐の首を切り落とした。そして、あまりの情報の多さに何もできなくなっている薬師を担いでその場から逃げ去った。狐と鬼と神の三つ巴の戦いは狐の死をもって終結した―

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