九話「狐の術」
―少し時間が巻き戻る、吞乃と薬師は玉藻前へと向かっていた。二柱は流動体となり狐に見つかることのないように移動する。液体となり地を這い進む二柱を見つけることはまずできないはずだ。―そのはずだった。どこからともかく二柱へと狐火が飛んできた。狙いは少し外れたようだが、少なくとも二柱がこの当たりにいることは気付かれているているよだ。
(チッ、見つかったか。恐らく私らが来ることを見越してどこを通るのか考えてたんだろう、後は勘か?まあどうあっても流石だな。)
吞乃は薬師に意思を伝えるため一旦体を戻す。当然薬師も体を戻した。
「何が飛んできても気にするな!少し遠回りするが私に付いてこい!」
「分かった。」
二柱がとった選択は無視。ただ恐らくどこを通るかは先読みされているので変更をするようだ。元の予定より結構時間がかかる道を二人は進んで行く。流石の狐側も変更後の道までは読み切れなかったようだ。その後しばらく狐火は飛んでこなかった。そうして玉藻前のいる本陣の背後に付いた。
「やはり来たか。しかし驚いた、まさか二人で来るとはな。もう片方は鬼の方へ行くと思ったんだが。」
そう言って玉藻前は本丸の幕から顔を出す。その後狐の小さな目を見開く。
「なるほどそう来たか!これは面白い、まさか貴女方が三人組になるとは!やはりタチガミは鬼の方へ行ったのだな!長く生きるとこんな事もやはりある物だ!」
「悪かったね二対一になって。まあコイツはまだ初陣だがな。」
「いやはやとんでもない。私としてはこの戦場に第三者の介入がある事の方が大切だ。」
「まあここを戦場に選んだ時点でそんなこったろうとは思ったよ。まあ色々と面倒な事は嫌だしな。」
「そういう事だ、では始めるとしようか。」
そう言って玉藻前は人間に化けた。鬼と戦った時と同様の傾国の美女だ。
(すげえ美人だな。)
ずっと蚊帳の外だった薬師はその美しさに見とれた。がそんなのお見通しと言わんばかりに吞乃が背中を叩き、戦闘態勢に入った。
「おやおや、別に私にくっ付いても良いが?その美形は私も欲しいもんだがな。」
玉藻前が口角を上げる。
「戯言を言うんじゃないよ。薬師、行くよ。」
(どっちも恐いなコレ…)
「分かりました…」
そうして二柱と一匹の戦いが始まった。
動かない玉藻前に対し、二柱は流動体となりその周囲を回り様子を伺っている。ある時分で玉藻前が狐火を飛ばす、その狐火は見事薬師に命中した。
(嘘だろ!なんでこんな正確に狙えんだよ!?)
薬師は動揺する、しかしいくつか水分が飛んだ事以外大した被害を被っていないことに気づいて吞乃に合わせて回り続ける。
(もう終わったのか。流石歴代一番の妖力だな。)
(やっぱ吞乃相手は面倒だな、有効打が無さ過ぎる。妖力を押し広げ探知して逃げられないようにしたは良いものの―さて、どうするかな。)
細かいことはよく分かってない「妖」しい「力」妖怪達の持つ基本的な力だ。常々狐たちの長となる種、つまり『白面金毛九尾の狐』はその妖力を多く秘める種である。玉藻前はその狐の歴代の長達の中で一番妖力が高いのだ、それゆえの圧倒的火力の狐火や規模の大きな変化を行う。しかし二柱にはそんな物効かない。故に玉藻前は悩み考えていた。もっとも結論は最初から決まっていたのだが。
玉藻前は今度は狐火を薬師と吞乃に向って飛ばす。しかし今度は着弾しない、薬師と吞乃の少し前を先行しているだけだ。そうしてその後大型の狐火を自身を中心に発生させた。
(いったい何がしたいんだ?さっき狐火は効かないって分かったじゃないか。)
そうして狐火が消えた後も玉藻前の周りを回り続けていた。しかし狐火が消えて少し後のこと、薬師の動きが鈍った。そうして最後には動けなくなった。
「まずは片方から対応させてもらった。」
いつの間にか円周の外にいた玉藻前は妖しく微笑んだ。
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