八話「薙刀の付喪神」
「理不尽ねぇ。それはアンタも大概だよ。」
「それは誉め言葉と受け取っても?」
「三割はね。」
「それは有難い。」
タチガミは相変わらず高所を取ったままだ、降りる理由もないのでそのまま結界を張り続ける。しかし先ほどまで押されていた茨城は打って変わって攻勢に出た。そのまま片手で自分のもう片方の手ごと金棒を結界に叩きつけた。すると目に見えない結界はパキパキと音を立ててひびが入り、そしてそのままちょうど硝子が割れるような音を立てて割れた。
「これは驚きましたね。割れる音なんて初めて聞きましたよ。思いの外高貴な音なんですね。にしても流石、貴女の所の中堅の鬼が十集まっても割ることはできないはずなんですが。」
「その割にはすました顔してるね。その足場からも耳障りな高音を響かしてあげるよ!」
そう言って茨城童子は金棒を下から上へと振り上げた。その後タチガミが足場としている結界に衝突し先と同じように叩き割った。そのまま落ちるタチガミに追撃を仕掛けようとするも、うまく躱された。まだ縦に、横に、何度も連撃を仕掛ける彼女だったがしかし、すべて躱される結果に終わる。
「すばしっこいね、アンタ。」
「貴女の精密性が落ちたんですよ。その出鱈目な力の代わりに。」
「やっぱ分かってる?」
「見たら分かるじゃないですか。…しかしまあ、このままだと私も避けるしか手が無いので仕方ありません。」
そういってタチガミは背中から一本の薙刀を抜いた。
「そんな気はしてたんですが、やはり貴女相手はこれが要る。」
「ようやく『本体』のお出ましか、器用お化けが。」
「ほう、ご存じだったんですか。私が付喪神だってことを。」
「どう考えても一介の付喪神の持って良い力の範疇を超えてるけどね。」
「まあ、振っておいてなんですがその話は後にしましょうよ。」
「だね。」
今度もまた茨城から仕掛ける。しかし先とは違いタチガミは避けなかった。薙刀で受けたのだ。茨城童子の出鱈目もいいとこの力を、短い刀身で受けたのだ。先程までのタチガミにはできぬ芸当だ。だが茨城童子も負けてはいない。縦に振り下す素振りを見せタチガミが構えたところで横に振り抜き彼を吹き飛ばす。少しづつだが体が慣れて精密性が上がっていっているのだ。
その後は大した進展のない接近戦が延々と続くと思われたが、やはりいずれ戦いは終わる物である。
(―痛ッ!)
切り落とされた右腕の傷口が疼き、茨城童子がほんの少し僅かな間硬直したのだ。あまりに短い隙ではあったがしかし、目ざといタチガミがこれを逃すはずがなくその一瞬の隙に薙刀を突き出し左腕を切り落とした。両腕と金棒は宙を舞い彼女の後方の地面へと突き立てられた。
その後茨城童子は一息ついて。
「負けたね。結界を割る手段が無くなった。アンタの勝ちだ。」
「そうですね。」
そういってタチガミは得物をしまった。
「ねえ、私に勝ったんだからもっと喜んでもいいじゃん。」
「いや、終始相性の良さだけでやってたのでなんと言うか勝てて当たり前と言うか寧ろ有利不利をまくられかけたのが恥ずかしいと言うか。」
淡々と感情がこもらない声でタチガミはそう言う。
「一介の付喪神の癖に茨城童子サマに勝って嬉しくないとか贅沢の極みだぞ!」
彼女は興奮する。両腕を切り落とされた割に元気だ。そんな彼女にタチガミは溜息を吐く。
「寧ろこの相性の悪さでまくり掛けたあなたの方がおかしいんですよ。本来は力で割ることなんて出来ないんですよあれ。たとえ星が落ちてこようとね。結界を割るなんて後にも先にも貴女ぐらいだと思いますよ。多分私以外の二人ならきっと貴女に勝てませんでしたでしょうに。」
「…そっかー、ならいいかな~。でも吞乃さんには恩があるからな~、わざと負けちゃうかもな~。…そういえば今二人って言った?」
「はい。」
「つまり吞乃さんにアンタ以外のついてくる仲間ができたって事!?」
「そうです。」
「いつ!どこで!なんで!」
「数日前の、この辺で、気まぐれに。」
「うわあ、そっか~意外だ~。」
「そんなもんです」
「んで、今その二人はもう片方行ってるんでしょ?」
「そうですね。」
「これが終わったら新入り連れてきてうちに来るように言っておいてね、鬼のよしみで飲もうよってね。」
「分かりました。」
「あっ、私の腕持っといて。適当な時分でくっつけるから。」
「やはり私よりあなたの方がよっぽど理不尽だと思いますよ?」
「そうか?」
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