七話「戦場」
――三柱は夥しい数の鬼と狐が集まる平野を見下ろす山の上にいた。
「はー、成程ねぇ。こりゃ絶景なこって。」
「そうですね~。」
「んな事言ってる場合か!今から始まろうってところだぞ!」
「悪い悪い、ちょっとした皮肉みたいなもんだ。」
(最初にこの事を知ったときはえらい焦ってたのにもうこの余裕だよ。)
薬師は思わず心の中で突っ込む。
「んで、誰がどっち当たるか?」
「それじゃ私が茨城を攻めますかね、偶には思い切り暴れるのも悪くないでしょう。」
「じゃあ行ってこい。私らは二人で玉藻前を攻めるとするんで良いな。」
「ええ。では失礼します。」
そう言ったタチガミは口角を思い切り上げ、戦場へと飛び込む。相変わらず目元は見えないがまるで獣のような笑みだった。
(もっと冷静なイメージだったんだがな。)
「それじゃ、私らも行くとするかね。」
「分かった。」
今回の三柱の狙いは単純、玉藻前と茨城童子の確保、そして保護だ。妖怪は基本種としての存在に重きを置く、故にどれだけ死のうが関係ない。だが名前がある妖怪はそうではない。名のある妖怪は個としての存在が必要である。故に三柱は前線で命のやり取りをしている鬼や狐は無視して頭を狙うのだ。
「おい、今何かが通ったぞ!」
「何だって!狐か?!」
「分からんが人型だった!気ぃ引き締めるぞ!」
「人型ァ?!」
当然無視するといっても見逃してもらえる訳がない。大きく視認性を下げれる薬師や吞乃と違いタチガミはそれが顕著だ。しかし、タチガミは捕まることはない。この場において鬼達との「縁」を切っているからだ。そうして彼は難なく茨城のいるところへと着いた。
「―誰だ?」
「あらら、見つかってしまいましたか。始めまして茨城童子さん。」
「アンタか、私に何の用だ?」
「当然。鎮圧ですよ。」
彼は恐らく微笑んでそう言った。
「なるほどねぇ。少し相性は悪いけどアンタみたいな若造に負けるわけにはいかないんだ。」
そう言って茨城童子はただでえ高い彼女の身長よりも長い金棒を抜いた。
「一方的にやっていきたいんですけどね。仕方ありません。」
対するタチガミも錫杖を構えた。
「行くよ!」
茨城は大きく振りかぶりタチガミに殴りかかる。だが金棒は彼の額の上で止められた。
「出たよ、結界術。アンタ少々多芸が過ぎないか?」
「一応つながりはありますので。派生形としては可笑しくないかと。ほら、人間たちだって数種類の武芸を治めてるものですし。」
茨木は後ろに跳んで距離を取った。
(やっぱコイツはいろんな意味で苦手だ。)
タチガミは錫杖を前に突き出した。すると何かが空と地面と木を断ち切った。が、茨城は毛先が掠ったものの特に傷は無いようだ。
「まだあるのか!」
「今のも結界術ですよ。結界とは物と物とを断つ力なのでね。普通のと違って同時に出せる枚数と強度に制限はありますがまあ同じ様なものですよ。」
「よく言うもんだなオイ。」
止められると分かってても金棒を振り続ける茨木と止め続けるタチガミ、永遠と同じ景色が続くと思われたが、ある時節で茨城童子の攻撃の手が弱まり、その隙にタチガミが跳び自身の張った結界の上に着地した。
(やらかしたッ!)
そのまま上側から結界を張り続ける。茨木は上手くいなしてはいたが、やはりいずれ当たることは自明の理。そうして彼女の右腕は切り落とされた。しかし、酒吞童子一味の二番手は伊達ではなく、切り落とされた腕に金棒を持たせさらにそれを左腕で持ち上げた。
「あらら、不正解でしたか、右はまだ切られたことが無いと思ってたんですけどね。」
「もはやどっちが正解か何て覚えてないよ。だから正解は無いだろうね。」
その言葉を聞いてタチガミは笑ってこう言った。
「それは理不尽なことで。」
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