六話「準備」
「―ほう、成程な。ここらで玉藻前と茨木童子が事を起こす、と。これまたえげつを持って来よったの。んで、何のために吾の所に来た?まさか力を貸せという訳でもあるまい。」
「寧ろその逆ですよ、手を出さない事。それをお願いしに来たんです。」
あれ?最初この辺を治めてる人に許可を取りに行くって話じゃなかったか?
「まあ、そんな気はしておった。別に言われなくとも分かっておるわい。好きに暴れて来い。だが、今の猶予の内に新入りは使えるレベルにはしておけよ。」
あれ、よくよく考えれば最初から初陣から結構えげつないとこに駆り出されるんかコレ?
「ここから戦場一帯を祟るなんてことが無いようにお願いしますね。」
「そんなものは、
「それは安心ですね。」
「吞乃よ、こやつを犬なら食えるぐらいに躾できんのか?もとはお前のせいであろう?」
「んな無茶振りをしないでくれ。コイツに関していえば最初の三柱の前でも同じ態度だと思うが。」
最初の三柱が誰かは知らないが相当なお偉いさんにもこの態度なんだな。
「そいじゃ、邪魔したね。」
「吾は上手くやることを切に願っておるぞ。」
「お邪魔しました~。」
それじゃ俺もついていくとしますか。
「待て。少し、言うことがある。ただの老婆心だがな。」
「…はい。」
何を話そうというんだ?あんまりあの二人を待たせたくないのだが。
「あの二人に付いて行くといかばかりか多くの厄介ごとに巻き込まれるだろう、が彼女に拾われたのは相当な幸運だろうて。少なくとも他の存在に出会っておればどこまでも人間の域は出なかったであろう。」
つまりどういう事なんだ。そりゃ気まぐれで神様にさせてもらえるなんて幸運が相当上振れたに決まってる。
「それは、どういう事なんですか?」
「さあな。そのうち分かるかも知れぬがおおよそ分からぬやも知れぬ。ただ、最後まで自分を忘れるでない。この世で人であることは兎角難しきことだがな。止めて悪かった、行くが良い。」
俺にこの世界の人間としての記憶は無いんだけれども。ただ、あの世界を忘れることはないだろう。さて、今度こそ此処を後にしよう。
――さて、戻って来た。腰を落ち着けて質問だったりをしようかな。
「なあ、済まないが俺を鍛える時間。つまり戦が始まるまでどれほどの期間があるんだ?」
「ん?まあ後七日程はあるな。もうすぐ空亡だし。」
「ソラナキ?それがどう関係するんだ?」
「空亡って言うのは人間の運勢において良くも悪くもない期間のことですね。何か良い事があれば同じだけ悪い事が起きる上振れも下振れもしない二年間ことで。それが妖怪には日付けで決まるんです。ちょうど仏滅みたいに。」
「つまり勝ちと負けがどっちにも転ばない日を避けようとするだろうって訳だ」
「なるほど。つまりどれだけ戦力が集まって準備が整ってもそんなにすぐには始まらないのか。」
「だからこの期間にお前を使える程度にするって訳さね。」
「お手柔らかにお願いします…」
「まあ、基本的な動きに慣れて、攻撃したりだったりを体に覚えさせるだけでそんなに技術が求められる事はせんよ」
何だ、そこまで大変って訳じゃなさそうだ。
―と思ってた時期が私にもありました。
どんな訓練をしてるかって?単純も単純で吞乃の背後を取り続けるだけ。これの何がキツイかってとにかく疲れる。と言うか体の力がどんどん抜けて言ってる感覚に襲われる。自分の体積以上の水を出し続けるとどんどん力が抜けていくらしい。そこでその力が抜けるまでの時間を延ばすための訓練ときたわけだ。因みに体を動かす分には殆ど疲れを感じない。こっちは簡単だ。
「そいじゃ休憩明けと行くかね。」
「…へい」
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