五話「神の片鱗」
「…勝負あったねこりゃ。」
「ですねぇ。」
うわぁ、体が一切動かん。立ち上がれる気もしない。まさか一歩も動かれずに負けるとは。これが「大社」におわせる神の力か…
「ふむ、筋は悪くなかろうて。吾は楽しむ分には楽しめたぞ。」
「それはどうも有難いことで…」
―事は少し前に遡る。薬師と祟り神は手合わせとしてお互い対峙していた。
「右も左も分からぬ状態で先に動けというのも酷であろう、後手は譲ってやる。」
彼女はそう言って大きく余裕の持った袖から数匹の蛇を出して、薬師に向って投げた。当然彼に避けられないものではない。
「小手調べにしては舐めすぎじゃないか?」
「生後二日の児子には程良いと思うがのう。まあよかろう。人の恐怖の、その片鱗を見せてやるかの。」
そう言った瞬間、彼女の影は彼女の倍近くになり大きな蛇を象ってその姿を現した。
「少しだけ、枷を外すぞ。問題は無かろう?」
(もう少し考えてものを言うべきだった…怖え。)
顔には出さないが薬師は恐怖していた。そんなことも露知らず大蛇は大きく口を開け薬師を食らわんと迫り彼の体を貫いた。が、彼の体は水となり別れた。その後二つの水たまりの片方から無傷の彼が出てくる。
(うおっ!?無事だ!…なるほど、攻撃を受ければ水になり、どこからでも自分を生み出すことが出来るのか…。だったら―)
彼は自身を水にして、彼女を中心とする大きな水溜りを作り上げた。
「ほう、面倒なことをしよるな。」
瞬間、彼女の背後に彼は姿を現し、その鎌状の腕を振るわんとした。が、大蛇が尾を振り無理矢理水に戻される。
(まずはあの蛇からだな。だが攻撃しようにも触れることすら難しいぞ。どうすれば…そうだッ!)
彼はもう一度水溜まりに潜り、大蛇の横に顔を出して水に付いたその腹からそれを凍らせた。
「これでアンタに専念できるぜ。」
「是。だが、ここまでになるか。」
突如として薬師の体が倒れ、水溜りが消えた。それを見て吞乃は
「勝負あったな」と―
「何があったか全く理解が及ばないんだが、教えてくれやしないか?」
「よかろう。まずそちの体は殴る蹴るなどの物質的な干渉は受けず。よって先の手合わせにおいて蛇の攻撃にびくともせなんだ。」
「ああ、それに関してはさっき理解した。」
「吾は吞乃でそんな事は疾うに知っておった。故に吾は吾自身の眷属である蛇を媒介として祟りをそちに与えた。」
「祟り?」
「祟りとは物質的でなく概念的であり、祟られた対象に対して害を与える。あれ程の大きな水溜りがあれば流し込むのも容易であったぞ。」
マジか、自分で自分の首を絞めてたんかあれ。しかも最初の蛇で祟られたらその時点で終わってたのか。
「うむ、まあ満足できぬことはなかった。本宮へ向かうぞ。」
「待ってくれ!動けんのですけども?!」
「ん?吞乃に無理矢理に物質化したまま引かれればよかろう?」
「え~面倒なんだが?」
「出来ぬわけでもあるまい。な?」
うわっ、やっぱり怖い。
「…分かりましたよ。」
こっちはすげえ不満そう。
「良いか?では行こうか。」
ん?なんで神社の中に入るんだ?今から本宮に行くんだろ?忘れ物でもしたのか?
「んじゃ、失礼するよ。」
ああ、祠みたいに中に別空間が広がってるのかな?
「やはり便利ですね。こうやって直接移動できるのは。」
「私らは隠里を一旦経由しないといけないからねぇ。」
残念、予想が若干外れた。まさかのワープだったとは。
「さあ、何が起こるか吾に話すがよい。」
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