三話「大事」


「やあ、新しい仲間を紹介してやりに来たぞ。」

「仲間と言っても監視のついでですけどね。一応いざという時は役には立ちそうです。」

「おお、吞乃様、よくぞお越しくださいました。そこの貴方が新しい仲間ですか?」


吞乃が呼んだ河童の長老は割に人間に近い姿をしていた。肌の色は自分とさして変わらないし、口も嘴ではなく人間とほぼ変わらない。ただ、首から下には鱗のようなものが見え隠れしているし、指と指の間には発達した水かきがある、やっぱ人間ではなさそうだな…

それはとにかく質問に答えよう。


「多分そうだと思う、なぜこうなったかは分からないが…」

「そういえばタチガミ様が監視と仰られてましたね、なぜ処分ではなく監視を?」


おうまて、今処分って聞こえたぞ?こいつらは簡単に俺を殺せるのか?…殺せるだろうな、なんせ神だから。じゃあ何故情けを掛けたんだ?


「ああ、それに関してはただの気まぐれだよ。もしも私に歯向かっても遅れは取らんし、もしもがあってもやりようだけなら幾らでもあるしな。ただ、コイツを神にするのに失敗したら処分もあったかな。」

「ですね。」


WOW!さっきの状況って死ぬかどうかの瀬戸際だったのかよ。驚き過ぎてアメリカン魂が出たわ。気まぐれで神にされるってとんでもない幸運だからまあいいか。


「取り敢えず俺をここに住まわしてもらうことはできないか?」

「勿論ですとも!」


おお、拠点ゲット!衣食住の住を確保できた。さてこれからどうしようか。元の場所に戻る方法があるとは期待できんからなぁ。おっ長老が何か言いおうとしてるな。


「つまり、このお方の管理は私たちに任せるという事ですか?」


ん?ここに住むなら吞乃たちもいるんじゃないのか?


「薬師童子って名前だ。それに関してはコイツが勝手に聞いただけだ。基本的に私と同行させるさね。」

「どういう事だ、吞乃とタチガミはここを拠点にしてるんじゃないのか?」

「私たちは基本的に土地を転々としてるんですよ、ここに来るのは月に一度ぐらいですかね。」


マジかよ、定住が当たり前じゃないんか。ここは何とか慣れるしかなさそうだ。


「では、私たちは状況報告を受け取るだったりがあるので。別におられてもいいですけど知らない土地の話よりもその土地を知ることが大切でしょう?」


…はいはい、退散しますよ、全く。腹が見えないせいで優しい喋り方とか口調がより怖く感じるんだよなあ。


「どうもこんにちは~。」


部屋を出たタイミングで河童に話しかけられる、こいつもなんか腹に抱えてそうで怖いんだが…


「貴方は吞乃様に連れてこられた新しい神様ですよね?今からちょっと重要な話があるんですよ。長老と吞乃様達にね。きっと貴方も動くことになりますよ。」


うわ胡散臭っさ。さっき出てけって言われて出てきたばっかりなのに戻らんといかんのか。まあ、仕方が無い、失礼しますよっと。


「うわっ。」

「おお。平蔵さんですか。」


河童見て「うわっ」て、そんな露骨に嫌な反応示したらダメでしょう、貴女ここの神様でもあるんだから。と言うかやっぱ結構な厄介事持ち込むのねコイツ。


「平蔵!何しに来た!」


おおう、長老もキレてる。そりゃ上司への報告中に面倒な部下が来たらキレるわな。


「ここまで空気が変わる平蔵って、今までどんなことやらかしたんだ?さっき俺を追い出したことをチャラにするから教えてくれよ。」

「いやまあ、そんなの関係なく教えはしますけど…。彼はこの土地の中で唯一の名前持ちなんですよね。」

「名前持ち?そら誰だって名前ぐらいあるだろうよ。」

「確かに人間ならそうかもしれませんね。ただ妖怪ではそうではありません。先に言ったように神妖は人間等に認識される、もとい信じられることで存在しています。そして河童などの妖怪は『種』として信仰されています、なので別個体であろうと河童は河童で違いは無いのです。が、名前があると『種』ではなく『個』として信仰されます。『個』と認識されるようになって初めて名前が付くのです。」

「…つまり、どういう事だ?」

「その種族の中の相当やばい奴にしか名前が付かないという事ですよ。その方向性は分かりませんがね、例えば強さだったり、異常に搦め手が上手いだったりとね。」

「なるほど分かった。で、平蔵はどうヤバイんだ?」

「まあ…彼はですね事件の予兆と言うか…商機、つまり商人たちへ儲ける機会を与える河童として信仰されてますね。そういえば今日は満月でハレの日でしたね…」

「その機運の河童が満月の日に来ると何が不味いんだ?」

「まあ、大概は碌でもないことが起きるんです。何かが圧倒的に足りなくなるような事件が起きてそこから商人が儲ける。その予兆だから名前が付いたんです。」


うわっ資本主義的だ。ま、まあ話は終わったし長老に怒鳴られてる平蔵さんにお話を聞きましょ。


「吞乃さん宜しくお願いします!」

「んったくしょうがないねぇ。」


やっぱ偉い人は偉いわ。空気感の変えやすさが違う。


「長老、私らが対応せんといけん事案の可能性もある。もしそうなら早いうちに動きたいから話さしてやってくれ。」

「…吞乃様がそうおっしゃるなら仕方ありません。平蔵よ、無礼の無いようにな。」


ホラ予想どうり、これでスムーズに話が進むぜ。吞乃様々だな。


「ありがとうございます。それでは単刀直入に言うと、この土地で妖同士の争いが起きます、酒吞童子一味と狐です。恐らく将軍は酒吞童子側が茨城童子、狐側は現当主でしょう。」


酒吞童子って俺でも名前聞いたことあるな、相当なレベルの鬼だろう。でも茨木童子は知らないからちょっとした小競り合いかな?


「うーわ。平蔵、それ本当だったらやべえぞ。しかもよりにもよってこの辺かあ。」

「ただの大妖怪ならともかく、その二人なら妖怪達の勢力図が大きく変わる可能性がありますねぇ。」


口で言う言葉の割にケロッとしてるタチガミは置いといて吞乃がそういうってそんなに?


「まあ、しゃーない。やりようならある、私らが行くわ。二人とも覚悟しとけよ。」


これは相当な厄介事っぽいな…

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