第4話 朝 予告された死 四日目
四日目
遠く果てにある地平線。そこからひょっこり顔を出すのは我らが太陽である。明るく力強く輝きを飛ばすそのエネルギーが、何故だか久しく感じられる。
はぁ。
このエネルギーを伸び伸びと一身に感じられればどんなに気持ちがいいだろう。果たしてどうしてこんなことになるのやら。ゆっくりと、昨日を振り返ろうではないか。
ご存じの通り、昨日は雨だった。元々好きでもない雨に対して、史上最悪の嫌悪感を抱きつつ出社したまではいいのだ。別段危険な出来事も無く出社出来たのだから。が、あれだ。会社の皆も当然の如く雨が嫌いであり、奉仕の態度に出ている私は否応なしに外回りの営業を任される羽目になった。私の後頭部を始めとする、髪に隠れた血管が異常に膨れ上がったのをご理解頂きたい。
とまあ、そんなことはどうでもいいのだ。大切なのはこの後である。雨の方の仕事は別段事件も無く、やはり占いなど大したことは無いではないか、と高を括っている時分、彼はそこに佇んでいた。ゴミ置き場の前で、どうやら漁っていたのであろう左手にはビニールに包まれたシール帳のようなものを持って空を見上げて佇んでいた。齢にして十五,六か。ホームレスにしては若過ぎるその少年。見つめてくる眼差しの先にあるのは私の眼だった。澄んだその眼の奥にある侘しさを、周囲の雨が際立たせている。ふと、そんな美術画を見ているような錯覚が起こった。
「何」
少年が、敵意露わにそう呟いた。その言葉が印象的で、今でも鮮明に覚えている。私が自然と彼を家に招き入れたのは想像に難くないだろう。あくまで、『自然とである』決して占いのことがあるからではない。無論、僅かに頭に過ぎったのは認めるが、あってもなくても私の行動がそれに起因している訳ではないことははっきり言っておこう。
まあそういう訳で、彼は今私の部屋のベッドでスヤスヤと寝ている訳だ。私は隣の地面に布団を敷いて寝た。家主のはずの私が。
改めて断っておくが、占いどうこうでは無い。まあ、親心のようなものだ。一人の大人として、かよわき少年に譲ってやったのだ。が、まあ毎日こうだと流石に困るとは思う。
ふわぁ~
そんなこんなで少年が起き出した。
「飯ない」
開口一番これである。はっきり言って、家に招いたまではいいが、少し後悔している。流石は捨てられるだけはあるといったものだ。
「君はまず礼儀を弁えなさい」
「勝手に連れてきといて、説教すんなし」
何度もすまないが、彼を家に招いたのは善意である。
「ところで君は、本当に家に戻る気はないのだね」
「ない」
善意で、招き入れたはいいが、元居た住まいを言わないのは勿論、名前や生年月日ですらとことん話さないから性質が悪い。折りを見て警察に届けるくらいはしなければならないが、話し方を間違えば誘拐犯か何かにされかねない。つまり、今は手なずけることから始めなければならない。
「ってかおっさん。なんで俺なんかに構う訳。情けは人の為ならずって知ってる。別に嬉しくないよ」
「ぶっ、ははははっ」
つい吹き出してしまう。青年はムッとする。
「何がおかしんだよ」
「未熟者よ。君は大きな勘違いをしているぞ。情けは人の為ならずっていうのは、情けをかければ巡り巡って自分に良いことが起こるから、積極的に人を助けなさいという意味合いの言葉だ」
青年は目を見開いて顔を赤らめた。
「まあ、とりあえず今日はおじさんとボランティアに行こう」
決してうらな……、いや、いい。少年の荒んだ心を正し、かつ弱点である礼儀作法を克服するにはこういうボランティアによる社会活動は適当だと思われる。無論、直接的に更生する手もあるが、何せこのやさぐれようである。急がば回れという素晴らしいことわざもある。これでも、色々考えた末での判断である。会社には、風邪をひいたことにした。雨の中外回りをしていただけに、とても都合の良い言い訳だ。ついでに、有給も全て使うことにしている。
「お腹空いた」
彼なりのオーケーの返事なのだろう。なんとも憎らしい返事である。昨日今日と話しはしたが、ボランティアに行くこと自体には抵抗は無いらしい。一応、簡単に調べたところ、ちょうど緑を増やそうの会というボランティアが近所であるようなので、それに参加しようということにしている。
「ニュースつまんないんだけど」
そういいながら、番組をころころ変え始める。全くもっていい度胸である。
「君はまず、教養をつけなさい」
と、リモコンを奪い返し、ニュース番組に戻す。すると、容赦のないにらみを利かせてきた。
「うざぁ」
「はぁ」
色々と先が思いやられる。
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