第3話 朝 予告された死 三日目
三日目
空が暗闇と言えど雲はある。朝方の雲は夕方のそれと同じく、また、少し違った感じでもあるように様々な色を伴うことがある。橙、赤、紫、白、灰色。そして、暗闇の中では当然黒だ。私が好きなのは真っ青な空に浮かぶ白い雲である。あれはまるで広大な風景画を見ているようで心地良い。もっとも、風景画がその空を模しているのだが。とにもかくにも、対象的な黒ともなると嫌いである。あの雲を見るだけで気持ちがどんよりする。
ふははぁ。
なるほど。この一週間一筋縄ではいかないようだ。とりあえず、昨日の日記を読み返すことから始めるとする。
一昨日のこともあり、会社での立場はだいぶ宜しくない状況であった。が、まあ人に奉仕するにはちょうどいい機会であった。半ば必然的に積極的に雑用をしてやった。ただし、お茶入れだけは避けたが。まあそんなこんなで訝しげな表情を残しつつも、立場の回復には結び付いたと思う。
昨日の出来事と言うと、正直それだけであるが、普段使わない気を使ったためか、だいぶ疲れた。順風満帆と言えるほど体力というか精神力が持つかは少しばかしわからない。朝がいつもより早いというのも地味に効いている。対策として早めに寝るようにはしているが、きっかり一時間早く寝られるわけではない。今までのノウハウなり、身体的リズムがなかなか追いつかないからである。
ふ~ん。
と、そんな話は大したことでは無い。万物の源たる水。それを避けることなど出来ぬのだ。外を見てくれ。雨だ。全くもって不運とはこのことを指すのだろう。いや、おかしいか。ともかく、今の私にとっては大災害である。一週間くらい待っていてくれないものかと真に思う。これほどに雨に嫌悪感を覚えたのは生まれてこの方始めてである。
くそったれ。
会社を休んでしまおうかとも頭に浮かぶが、私は気病など嘘の類は専ら嫌いであり、普段からそう豪語している手前、休むわけにはいかない。そもそも本当に休んでしまったら私が本当に占いを信じているみたいではないか。お生憎様、早起きのおかげで時間はあるのだから、止むことを願いつつもゆっくりと雨よけをする算段を立てればよい。歩に気を付けていれば事故もなかろう。
合羽と、傘を差せばいいか。
ここにきて、早起きが有効になったわけだが、これを占い通りと見るか否か。素直に頷けないのは私の偏見によるものだろう。ただ、どちらにせよ守らば嵐は防げるはずだ。破ってわざわざ冒険する必要もなし。だが、なんだろうかとても不本意である。何か無性に腹が立ってくる。そもそもにおいて何故私は死なねばならないのだ。意味がわからない。前にも言ったが、これといった悪事を犯した記憶は無い。むしろ善行と言っていい行ないをしていると思うのだが。怠惰もほぼしていないと言うのに。全くもって神のさじ加減というのは理解が出来ない。だから、神やら占いやらは嫌いなのだ。理不尽と屁理屈の産物だと理解している。宗教家等を見ると、よくもまああんなものにすがる気になれるものだと心底思う。
まあ、私の罪と言えばこの不信心くらいであろう。しかしながら、これも別段苛烈な行動や言動でどうこうというものではない。私個人の思想であり、はっきり言ってその個人の思想にまで神とやらに干渉されるのは気に食わない話である。上っ面だけの宗教家だっているだろうに、そういう人に加護があって罰が無くて、私のようなものに加護が無くて罰があるなど、どういった道理であろうか。だから、神など占いなどは信じられないのだ。
『降水確率は70パーセントです』
なに。70パーセント。
占いの次に当てにならないものの筆頭は天気予報だろう。外を見てから言えと言いたくなる。既に降っているのに70パーセントだの戯けたことを言う。無性にむしゃくしゃしてくるではないか。全く、世の中は一体どうなっているのだ。
あ~もう。
さっさとこんなところから出てしまおう。
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