第2話 朝 予告された死 二日目
二日目
いつもよりも静けさが目立つ朝。朝というのはほんの少しのニュアンスを加えるだけでこんなにも情感が変わるものなのだろうか。無論、季節の変わりで朝が変わるのは知っている。が、今日のはまたそういったものとは違う。静けさが不自然に感じられるのだ。こんなにも私と調和しない朝があるものとは。
ふぁあ。
眠い。まあ、占いを信じる訳ではない。訳ではないが、一応気をつけてみようではないか。
コホン。
うむ、まずは日記で昨日の復習だ。まあつまりあれだ、私が信じもしない占い屋に行った経緯なのだが、あれは朝の星占い然り、移動中のラジオの星占い然り、目撃してしまった電光掲示板の星占い然り、街頭をうろつく占い師の急な脅迫然り、次いでプロジェクトのミスの発覚である。相手社長の名前が間違っており、また裏付け資料が一部届いていなかったらしく、交渉決裂。予定外が過ぎる出来事が起こった。断じて私のせいではない。部下の管理が甘かったのである。と、怒鳴り散らしてしまったために、社内での評判もガタ落ち。私は精神的に追い詰められていたのだ。
ふむ。
そんな折々に、私は帰り道に一人の女性に出会った。なんのこともない、転んでいるのを助けただけだ。女性はピンクの色をしたスーツを着ていたのだが、転んだ場所が悪く、かなり服を汚してしまっていた。決して、朝聞いた占いを思い出した訳ではない、一人の人として当然のことと助けたのだ。で、まあ事の流れとして一緒に喫茶店に入って話しすることになり、彼女は占い師だということを知った。なにやら彼女に言わせると彼女自身もまた不幸な日だったらしい。そんでもって私と会うことも予見していたらしいのだ(もっとも、私個人を予見していたわけではないようだが)。
まあ、私はというと占いなどは信じていないものであるから、正直彼女の占い事情などどうでもよかったのだが、彼女が強く直接占わせてくれというからには、断る訳にもいかずに占ってもらったわけだ。さてはて、その結果が問題なのである。いささかに宜しくない、縁起の悪い結果となってしまった。
え~と。
つまり、余命一週間以内ということなのだ。信じない信じないと散々言ってきたものの、立て続く不運といい、女性の心からの心配する目つきといい、様々な占い結果といい、なんとも軽視し難い感じになったのはわかって頂けるだろうか。
はあ。
さて、余命一週間以内と言っても対策があるとかで、以下のことを気を付ければ助かるのだそうだ。
一、朝早く起きること
二、水害に気をつけること
三、人に奉仕すること
特に今まで悪行を働いた記憶は無いが、不運を軽減するには善行が一番というのだ。全てを守れば逆に運命が好転するとか、あるいは運命の人がどうとか言っていた。三の人に奉仕することはだいぶ念を押されてしまった。一に関しては私は習慣として六時に起きる習慣があったため、既に達成されているような気もしない訳ではないが、念のため本日のように五時に起きることにした。
さて、問題は二の水害云々である。人間というのは水無しには生きていくことが不可欠なのであるからにして、避けると言っても程度が知れている。むしろ、人間が水で出来ている時点で避けようが無いと言っても過言ではない。そこのところを聞いてみたところ、どうやら死因は事故死になる可能性が高いとかで、その事故を避ける手がかりにして欲しいということだそうだ。なるほど、そういうことならばと納得した。が、まあこれも念を入れて極力避けるよう尽力しようではないか、どうせ一週間やり過ごせばいいだけなのだから。と、いうことで私は早速食器をゴム手袋をしながら洗っているわけだ。水分補給も果物を中心に控え目にしている。
なにはともあれ、そういうことになってしまった。今日からいささか面倒臭い日々が続きそうである。が、持ち前のノウハウで乗り切ってみようではないか。本当に死んでしまうことはどちらにせよ無いであろう。ではでは、出勤の時間である。
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