第23話「ミトン」500文字【命、手袋、名字】

死に場所を求めて山に来た。

『生きてるだけで丸儲け』

ばあちゃんの口癖だったけど却下する。

職も宿も失い、所持金で買えたのはカレーパン1個だったから。


歩くごとに、雪で顔がぐしゃぐしゃになる。

死ぬつもりなのに、寒くて泣きそうになる。

冬枯れの木の下にしゃがみ込んで、かじかむ手でパンの袋を裂き、最後の晩餐を一口ずつ味わった。一度休むともう動けない。腹に熱を感じると瞼が重くなっていく。


突然、強風に煽られた。

辺りは一面の白。凍りかけているのか、指が曲がったまま動かない。ふと目の前に赤い色。

片っほだけの、ミトン。

甲の部分に黄色いアップリケ、その真ん中には名前が、漢字で名字から刺繍されている。


それは俺のものだ。

園児の頃、ばあちゃんが家にある毛糸とフェルトで作ってくれた手袋。でも赤だし、名前も目立つ。恥ずかしくて一度も使わなかった。

何故ここにあるのか。

不思議に思いながらもウール100%の質感に触れると、楽しげな記憶が流れてきて、そんなに悪い人生じゃあなかったかも、と思えてきた。

ばあちゃん、あったけぇ。


━━ほどなく救助された青年は、翌朝病院で意識が戻り命を取り留めた。 彼の手にはパンの空袋が挟まっていた。

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