第21話「境界」500文字【黄色、死神、消えた中学校】

ボーダーラインを歩いている。

青と黒の境地。少しずつ見えてくる一本の道。踏み外さないように慎重に、かつ、いつでも走れるように、足元に意識を集中させる。


『グッモーニン』

背後の声に足が止まる。

肉声ではない。まるで壊れたスピーカーから飛び出した、空気を訝る響き。

これは惑わし。反応したらバランスを失う。

静かに踵を上げる。


『ダンダンッ』

道が割れるかの激しい衝撃に、つい振り向いてしまった。

『グッ、モーニン』

死神。

闇のマントを纏い、杖をかざして笑っている。


記憶が一気に蘇る。

『グッモーニン』

朝の挨拶は一撃から始まり、教室に着くまでに身体が腫れ上がる。

誰も僕を見ようとしない。

机も、僕の場所じゃない。

僕はもう、僕でなくなるという戦慄。

だから周到に計画した。僕が僕を守る為の遂行。

魂の青を捨て、魔の黒をかわし、息を潜めて生きてきた。

今さら、記憶から消えた中学校を呼ばないでくれ。


黄色くぼやけた帯に這いながら、ついてくる死神を何度も蹴り落とす。

あの日、屋上からそうしたように。


地面に散ったアイツに『グッバイ』を捧げたんだ。

なのに。

死の宣告に突かれ、捻じれたライン。

落ちていく闇の底でアイツが待っている。

『グッモーニン』









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