第7話「でこぼこ」500文字【弁当、父、雨】

保育園の運動会の時だった。

当日は雨で、室内で簡単なゲームをした後、早めの昼食になった。

父は急に会社に呼ばれたので、私は先生と一緒に食べることになった。


父が作ったお弁当は、でこぼこのおにぎりと、焦げた卵焼き、足が二本のウインナーのタコ、そして堅ゆでのブロッコリーだった。

今思えば、父子家庭だから仕方がなかったと思う。

けれど友達のお弁当は、いつもより綺麗で豪華で眩しかった。


無理に作らなくても、買ってきてくれて良かったのに。

恨めしく思いながら、お弁当箱を開けることに躊躇っていると、先生がそっと近づいてきた。

「お腹すいちゃった。さ、食べよう食べよう」

先生のお弁当は、白いご飯だけだった。

小袋に入ったふりかけをサッサとまぶし、大きな口を開け頬張った。

私は、そっと蓋を開けた。

「あら。お父さんすごい。全部手作り、頑張ったのね」

私は、でこぼこのおにぎりにかぶりついた。


きっと先生は、あえてご飯だけを出して食べ、私に蓋を開けるきっかけをくれたのだろう。

自分もそんな人になりたいと思った。


保育士になった今、同じような子供に思いをかける。

愛情は他人と比べるものじゃない。

いつか、気づいてくれたらいいな、と願いながら。

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