第45話

「あぶねぇ――マジで間一髪だったな」


 全身を冷や汗で濡らしながら呟く。


 渾身の魔力を込めて放った爆裂弾が炸裂し、死霊使いの根に寄生された冒険者達は木っ端みじんに吹き飛んでいた。


 爆心地は深く抉れ、焼け焦げて煙を上げていたが、中心部だけは無事である。

 鋼の信仰心を持つクレッセンの障壁なら、今の一撃にも耐えられるのは分かっていた。

 ただ一言呼び掛ければ、こちらの意図が伝わるだろう事も。


(そうとも。なんたって俺達は、三年も一緒にやってきた仲間だからな)


 晴れ晴れとした気持ちで思う。

 いい気分だ。

 実に。

 今なら、伝説のバケモノにだって勝てる気がする。


(ってのは流石に調子に乗り過ぎか?)


 己の単純さに思わず笑いが込み上げる。

 だがまぁ、人間など、しょせんはこんなものだ。


「……ライズなら、来てくれると信じていました」


 心置きなく笑うクレッセンを見るのはかなり久しぶりに思えた。


(つまり、あいつらが素っ気なくなった時期ってのは、俺に対する恋心を打ち明け合った時期ってわけか)


 シフリルの言葉通りなら、追い出された日から遡って半年前という事になる。

 その間三人は、ずっと悩んでいたのだろう。

 恋敵になれば、以前のように気兼ねなくというわけにはいかない。

 お互いに疑い合うよりは、いっそ仲良く手を引いたわけだ。


(美しい友情じゃねぇか)


 レイブンから、大体の事情は聞いていた。

 と言っても、大した事情でもなかったが。


 たまたま面倒を見てくれた年上のお人よしに、世間知らずの小娘どもが勘違いして、悩んだ挙句に一生続く友情を選んだというだけの話である。


 はっきり言って笑い話だ――お互いに。

 向こうだってバツが悪くて言えるはずがないし、気づかないでいたこちらも救いようのない阿呆である。


 なんにしろ――


(――そんな理由で追い出されたなら、文句はねぇさ)


 まぁ、多少は根に持つが。過ぎた事だ。


「……どうしてだ?」


 幽霊でも見つけたような顔で言うのはシフリルだった。


「レイブンから全部聞いたんでしょ? あいつ、ライズに似てお節介だし」


 恋心が知られたからだろう。ユリシーは拗ねたように口を尖らせ、ちらちらとこちらの顔色を伺っている。


「ま、そんな所だ」


 言いながら、ライズは最後のエーテル剤をユリシーに放った――青い顔は魔力欠乏のせいだろう。ユリシーは大の苦手だが、好き嫌いが出来る状況ではない。心底嫌そうな顔をすると、一息に呷った。


「だとしても! 私はお前を捨てたんだぞ! 全部私が計画したんだ! 二人を唆して、お前を追い出せば元の関係を続けていられると――」

「知った事じゃねぇって話だ。駆け出しの頃から面倒見てきた仲間だ。たとえお前らが本気で俺を嫌ってたとしても、死にそうだってんなら駆けつけてやるさ」

「うぎゅっ」

 と、ユリシーが変な声で喉を詰まらせると――そういう癖なのだが――そっぽを向いて泣き出した。


「でも、私は――お前に、酷い事を――」

「いつもの事だろ」

「い、いや、そう言われると心外なのだが――大体! ライズには新しい仲間が――」

「あぁ。だから、あいつらにはちゃんと感謝しろよ」

「ぐるるるあああああああああああ!」


 咆哮と共に木々をなぎ倒して現れたのは――顔のない黒い巨人だ。


「モモニャン! フルパワーなのである!」


 頭のてっぺんに腰まで埋まったキッシュが命じると、巨人化したモモニャンの剛腕が人食い森の王――ガルゲンメイランを殴り倒した。


「うぉっしゃああああ! 親玉、討ち取ったっす!」

「ちょっと!? なんでわたくしまでここにいないといけないんですの!?」


 と、左右の肩にそれぞれ埋まって、ペコとラビーニャが叫ぶ。

 森の王がその程度でくたばるわけはなく、額から生えた緑色の女が金切り声をあげると、人喰い森をそのまま編み込んだような巨大な竜は何事もなく起き上がった。応じるようにモモニャンも吠え、両腕でがっしりと組み付く。


「……なんだ、あれは……」


 大口を開けて呆けるシフリルの顔は見ものではあった。


「新しい仲間だよ。お前らと同じで、頼もしいが手のかかる連中だ」


 そういう意味で言ったのではない事は分かっていたが。


「本当は止められたんだがな。取引をして、力を貸して貰った」

「……取引?」

「勇者になる覚悟を決めたのさ」


 ニヤリとするが、意味は通じなかったろう。その必要もなかったが。

 本当にライズが魔王を倒す器なら、森の王だって倒せるはずだ。そんな話で納得させたのだ――ラビーニャは最後まで渋っていたが。


「そういうわけだ。あのバケモノはここで仕留める。弱点とか知らないか?」

「伝説が確かなら、額から生えてる人型を殺せば死ぬはずだ」

「マジであんのかよ」


 駄目元で聞いたのだが。弱点があるのなら希望はある。


「キッシュ! 頭の女が弱点だそうだ!」

「了解である! モモニャン! 野菜みたいに引っこ抜いてやるのである!」


 が、モモニャンは動かない。

 ――いや、動けないと言うべきか。


「キッシュ! モモニャンの腕に蔦が巻き付いてますわよ!」


 左肩に埋まったラビーニャが叫んだ。

 竜の形をしているが、元は膨大な量の死霊使いの根の集合体である。触れた部分から根を伸ばして、腕や胴体に絡みついていた。


「すごい力なのである! 引き剥がせないのである!?」

「キッシュ! 一度モモニャンを小さくして抜け出せ!」

「ここまで大きくなるのは、二度は無理なのである! それでもいいのであるか!?」


 困ったように聞いてくる。

 悩ましい問題ではあった。森の王と戦うには、巨人化したモモニャンの力が必要だ。


「なんとかしてみる! もう少し耐えてくれ! 刃よ――翔べ!」


 虚空を斬り裂くように右手を振る。縦に長い力場の斬撃が飛び、モモニャンの右腕に巻きつく蔦の束に突き刺さる。それなりに深く切り裂いたように見えたが、即座に大量の蔦が伸びだして切り口を塞いだ。


「無駄だ。恐らくあれはこの森の魔力そのものを我が物としている。額の本体を潰さない限り、どれ程の傷を負わせても直ぐに再生する」

「だとおもったよ! 魔弾の雨よ!」


 大量の魔弾を緑の女に向かって放つが、竜の身体から伸びだした大量の蔦が分厚い盾のように広がってそれを防いだ。


「まぁ、効くわきゃねぇよな」


 白蛇亭の手練れが束になっても敵わなかったのだ。ライズ一人の魔術でどうにかなる道理もない。


「この辺が潮時か」


 実を言えば、ライズも森の王を倒せるとは思っていなった。ペコ達を乗せる為の方便のようなものである。適当な所で切り上げて、大猫になったモモニャンに乗って逃げる算段だ。


「もういいキッシュ! 諦めてモモニャンを――」

「ペコ! おやめなさい! 死にますわよ!?」


 ラビーニャの悲鳴じみた声に掻き消される。


 ゾッとしてペコの姿を探す。なんにしろ、ろくでもない事をしでかそうとしているのは間違いない。先ほどまでペコが埋まっていた右肩は無人だった。ラビーニャの視線を追って右腕を見ると、蔦の絡まったモモニャンの腕の上をペコが走っていた。


(あのバカ、直接仕留めに行くつもりかよ!?)


「よせペコ! 戻ってこい!」

「ここでやらなきゃ、沢山人が死ぬっすよ!」


 こちらを見もせずに叫ぶ。その通りではあるのだが、ペコが無茶をしたところで死人が一人増えるだけだ。


「クソッタレ! ユリシー! 頼む! 援護してくれ!」


 無理な頼みなのは分かっていた。元々ユリシーの魔力量は多くない。顔色を見れば、限界を超えているのは明らかである。エーテル剤を渡したのは、そうでもしなければ今にも気絶しそうだったからだ――が。


「しゃーないよね」


 空元気で笑って見せると、弓を構える。手の中に、なけなしの魔力で編んだ矢が生まれた。


「私も手伝います!」


 クレッセンが錫杖を掲げて祈る。恐らく、ペコになにがしかの加護を与えているのだろう。


「うおぉぉぉおおおおおお!」


 シフリルは駆けだしていた。立っているのもやっとだろうに、凄まじい殺気を込めた魔力を放ち、練度の高い挑発で少しでも森の王の気を引こうとしている。


「ラビーニャ! 腹を括れよ!」


 胴体に向かってめちゃくちゃに魔弾を放ちながら叫ぶ。


「分かってますわよ!」


 ラビーニャも聖印を握りしめて祈っていた。


 竜の右肩が膨れ上がり、蔦の腕が増える。大木のような腕が、竜の頭を掴んで橋のようになったモモニャンの腕ごと、ペコを叩き潰そうと襲い掛かった。

 分厚い鉄板を殴ったような轟音が響く。蔦の腕はペコの頭上で止まっていた。


「ふ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎいいいい……」


 壮絶な顔で歯を食いしばるラビーニャを見るに、障壁の奇跡で防いだのだろう。

 そうしている間にも、ペコは蛇のように襲い掛かる無数の蔦を剣で払い、飛び跳ねて避け、ついに緑の女へとたどり着く。


「もらったああああああああっす!」


 気合一閃。渾身の魔力を込めた小剣を振り下ろすが。


「アハハハハハハハハハハハハハ」


 迎い入れるように緑の女が両手を広げて笑う。直後、足元から翡翠色の葉が伸びだし、蕾のように女を包んだ。


 ペコの強化は会心の出来だった。クレッセンの加護も加わり、相手が鋼鉄の甲冑でも難なく斬り裂いたに違いない。が、緑の女を守る葉は、それ以上の硬度で剣を受け止めている。


(だめか!)


 誰もがそう思っただろうが。


「勇者の剣っす!」


 右手で剣を振り下ろした格好で、ペコは左手に光の刃を生み出した。中指よりも少し長い程度の刃を逆手に構え、横一文字に薙ぎ払う。


 光剣のロッドが使ったという、断てぬ物なき光剣の秘術。

 その伝説は伊達ではなく、超硬度の葉をあっさりと切り裂いた。


「やりやがった!」


 総毛だって叫ぶ。

 左手を振り抜いた勢いで半回転したペコと目が合う。

 ペコは困った顔で舌を出した。


「しくじったっす」


 光剣は、触れる物全てを切り裂いた。だが、いかんせん短すぎた。緑の女は、首の皮一枚を斬られただけで無事だった。


「アハハハハハハハハハハハハハハ」


 哄笑が響く。

 足元から噴水のように蔦が伸びだし、ペコの身体に巻きつくと、そのまま竜の身体の中へと引きずり込んだ。


「ペコ!? ペコぉおおおお!?」


 ゾッとして駆けだすライズを、シフリルが力づくで抑えつける。


「行くな! あれではもう――」

「うるせぇよ! あいつは、お前らを助ける為に――」


 その言葉に、シフリルの顔が悲痛に歪む――が、それには耐えて言い返してくる。


「だとしてもだ! 考えもなし飛び込めば、お前も二の舞だぞ!」

「上等だよ! 仲間を助けられるなら、命なんか惜しかねぇ!」


 半ば引き倒すように、力づくでシフリルを引き剥がすと、ライズはペコを取り込んだバケモノへと向かっていった。


(野郎の口の中に飛び込んで、ペコを引きずり出す。それが無理なら、内側から魔術で吹き飛ばしてやる!)


 そんな事をすれば、自分は間違いなく死ぬだろうが。運が良ければ、ペコは助かるかもしれない。


(待ってろよペコ! 今助けてやるからな!)


「ライズ!?」


 シフリルに引き留められた所で止まる気は毛頭なかった。

 それでも足を止めたのは、その声が酷く困惑した様子だったからだ。


「なんだそれは――お前は――なにが、どうなってる?」


 振り向くと、シフリルは茫然としてこちらを見ていた。

 意味が分からず、ライズも自分自身を見下ろした。


「うぉ!?」


 驚いて飛び退く。

 足元が光っていた――と思ったのだが、飛び退いた所でなにが変わったわけでもない。

 光っているのは足元ではなく、ライズ自身だった。


「ライズが勇者に覚醒したのである!」


 頭上のキッシュが叫んだ。


「俺が、勇者? 嘘だろ?」


 だが、確かになにか、得体の知れない力の高ぶりを感じてはいた。

 それは、この場にいる誰もが感じる事だったが。


「つべこべ言わずなんとかなさい! あなたには、その力があるはずですわ!」


 モモニャンの肩に半ば埋まって、ラビーニャも言ってくる。


「いや、なんとかって言われても……」


 なにをすればいいのか分からない。

 なにが出来るのかも分からない。

 なにかが変わったようには思えない。


「ペコを救うのでしょう!」


 その言葉で、覚悟だけは決まったが。


「当たり前だ!」


(勇者だかなんだか知らないが、俺に力があるってんなら――)


「手間のかかるじゃじゃ馬娘の一人ぐらい、助けてみやがれっての!」


 渾身の力を込めて魔力を練り上げる。

 その一撃を放てば、あとは立つ事もままならない程の魔力を。

 組み上げた術はシンプルだった。

 最も得意とする術を叫ぶ。


「魔弾よぉおお!」


 会心の術を放つ。両手で支えなければ反動で倒れていただろう。

 放たれた魔弾は巨大だった。

 それこそ、ライズの背丈程もある。


「アハハハハハハハハハハハ」


 森の王は笑っていた。

 裸の胸の前で手を叩いて。


 大量の蔦が濁流のように伸びだして魔弾を押し返そうとする。

 破壊の意思が込められた必殺の魔弾は、魔力を帯びた膨大な量の蔦を引き千切り、蒸発させた。


 そして――竜の胴体にすら届かず、あっさりと霧散する。


「あ、あれ?」


 力尽きてへたりこみながら首を傾げる。


「ライズ?」


 疑うようなシフリルの視線が痛い。


「いや、頑張ってはみたんだが……」


 別に特別な力があるわけでもなく、ただただいつも通りの全力だった。

 が、相変わらずライズの身体は神秘的な魔力の輝きで煌めいている。


「わかったのである! キラキラして綺麗な力とか!」

「そんな哀しい力の勇者がいてたまるか!?」


 と、声はそこで途切れた。


「……なんだ?」


 森の王を振り返る。

 気になったのは、森の王ではなかった。

 その内側に、なにかを感じた。

 途方もなく膨大な、魔力の高ぶりだ。


「……ペコ、なのか?」


 答えたのは光だった。

 真っ白い、目を焼くような純白の光の柱――いや、刃か?


 それが一直線に立ち昇り、森の王の本体――緑の女の胸を足元から貫いて、長くそそり立っていた。


 緑の女は茫然とし、笑おうとして、声も出ず――人が急速に老いていくように、枯れ果てて朽ちた。途端に、竜は形を失って崩れ落ち、煙を上げながら萎れていく。長い――あまりにも長い光の刃は、暫くの間行き場を求めるように出鱈目に暴れ回り、唐突に消失した。


 わけがわからず、ただただ全員が茫然としていると、光の伸びていた根元辺りで枯れた蔦がもそもそと崩れ、一見すると枯れた蔦とそう大差もない癖毛頭がひょこりと飛び出した。


「ぶはぁ!? はぁー! はぁー! はぁー! じぬがどおぼっだっず!」


 窒息しかけていたのだろう。赤い顔をしたペコが激しく息を喘いだ。

 そんな状況でもまだライズ達が茫然としていたのは――ペコの身体が、ライズの身体と同じようにキラキラと輝いていたからだった。


「うぉ!? なんすかこれ!?」


 自覚もなかったのか、ペコは自身の身体を見下ろして驚くと、きょろきょろと辺りを見渡し、ライズの姿を見つけた。


「……やっぱりっす! そうじゃないかと思ったんす!」


 そして、謎の悦びに身震いをすると、飼い主を見つけた忠犬のように一目散に駆けて来て、座り込んだライズの胸へと飛び込んだ。


「最高っす! 自分とライズさんで、二人で勇者になるっすよ!」


 と、癖毛頭をぐりぐりとライズの胸に捻じ込みながら、ペコは笑い転げた。


「……いや、まったく意味がわからねぇが――」


(――そんな事はどうでもいいか)


 それこそ、じゃれつく犬を相手にするように、ペコの癖毛頭に手を置いた。


「なんにしろ、無事でよかったぜ」


 心底ほっとして呟く。

 ペコが取り込まれた時は生きた心地がしなかった。


「てかすげぇなペコ。お前の光剣だろ? どうやったんだよ」

「ライズさんがやったんじゃないっすか?」


 キョトンとして聞いてくる。


「あぁ?」


 こちらもキョトンとする他ないが。


「だって、もうダメだって思ったら、ライズさんの声が聞こえたんすもん。なに言ってたのかはわかんないっすけど。そしたらなんか急に漲ってきて、勇者パワーが覚醒したっす!」


 と、ペコが右手を掲げた――小剣は蔦の中で落としたらしい。伸びだしたのは、いつも通りの短小ソードだった。


「あり? さっきはすんごいのが出たんすけど」


 不思議そうに小首を傾げる。


「身体が光ってないからじゃないか?」


 ふと思いついてライズは言った。

 ペコが身体にまとっていた煌めきは少し前に消えていた。


「そういうライズさんも光ってないっす」


 そう言われてもと肩をすくめる。


「もしかすると、ライズには他者の力を強くする力があるんじゃないか?」


 細い顎を指で撫でて考え込みつつ、シフリルが言ってくる。


「はぁ? なんでだよ」

「私に聞かれても困るが――それこそ、選ばれし勇者だからとか……」

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」


 と、降ってきたのはラビーニャの悲鳴だった。

 一緒に降ってきた――というか背中に乗せた――猫型モモニャンが音もなく着地する。


「すごいのである! ラビーニャの言う通り、ライズは勇者になる男だったのである!」


 そのラビーニャは、巨人モードから猫モードに移行した際の落下で目を回しているようだったが。


「マジ? ライズが勇者とかヤバいじゃん」

「やっぱり、私の授かった啓示は間違いではなかったんですね!」


 ユリシーは疲れ果てて眠そうに。

 クレッセンは信仰の輝きに目を光らせて言ってきた。


「自分じゃなく、他人の為の力ね。お似合いすぎて、笑えもしねぇよ」


 正直実感もない。

 なんか光ったと思ったらペコが全てを終わらせたという感じである。


「……なんにしても、約束は守って貰いますわよ」


 モモニャンの背中で鞍のようにべったりとうつ伏せになりつつも、ラビーニャは念を押すように言ってきた。


(シフリル達と仲直りして、俺が古巣に戻るんじゃないかって心配してるんだろうが――)


 ライズは鼻で笑った。


「お前らだって大事な仲間だよ」

「……別に、そんな台詞が聞きたかったわけじゃありませんけど」


 口を尖らせそっぽを向くが、それ以上特に言わない辺り、その答えで満足したらしい。 

 肩をすくめて、ライズは言った。


「帰ろうぜ。ぐずぐずしてると、ビビった街の連中が夜逃げの支度をはじめちまう」

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