第24話
結局門はモモニャンが開いた。ドロドロの身体を鍵穴に滑りこませ、鍵の形に変形して開けたらしい。
「すごいな。こんな事も出来るのか」
「ふっふっふ、吾輩のモモニャンに不可能はないのである」
キッシュは自分の事のように誇らしげである。
「泥棒をするのには役立ちそうですわね」
「グルルルル……」
余計な事をいうラビーニャに、キッシュの影から顔を出したモモニャンが牙を剥いて呻る。
「もちろんいい意味でですわ! ねぇペコ、あなたもそう思うでしょ!?」
「ていうか、そんな事が出来るならさきにやって欲しかったっす」
などとぼやきつつ。
「ともあれ、こっからは敷地の中だ。ヤバい番犬が出るって話だ、注意しろよ」
「なんでもいいですけど、襲われたらやり返してもいいのかしら?」
「一応、真っ当な取り立てらしいからな。許可証もある。正当防衛ならやっちまってもいいそうだ」
「う~。自分、犬好きなんでワンちゃんは殺したくないっすよ」
「吾輩も犬猫の類は抵抗があるのである……」
「二人とも、姿形で魔物を差別してはいけませんわ。魔物は等しく神の敵、好き嫌いせず皆殺しにすべきですわ」
「良い事言ってる風だけどただのやべぇ奴だからなそれ」
神官だからと言えばそれまでだが。クレッセンに比べればまだ大人しい部類ではある。
「今回の仕事は魔物の討伐じゃなく、ボンタックを捕まえて借金を払わせる事だからな。避けられるなら戦う必要はない。状況次第だが、覚悟だけはしとけよ」
「う~す」
「気は乗らないが、仕方ないのであるな……」
そういうわけで歩き出す。金持ちの屋敷だけあって庭は広く、見えない程ではないが、屋敷までは距離があった。
程なくして、バウバウと犬の鳴き声が近づいてくる。
「来ちゃったっすね……」
「であるな……」
犬好きの二人が渋い顔を浮かべる中、ライズは魔力を練り上げた。
(ま、殺す必要はないわな)
足止めに使える術を思い浮かべる。魔力の縄や、地面を泥沼に変える術などである。
程なくして、茂みの中から鳴き声の主が飛び出した。
「バウバウ! バウバウ!」
「うっ、やっぱり無理っす!」
「吾輩も! こんな可愛いワンちゃん、殺すなんて出来ないのである!」
「これは……流石に俺も無理だわ……」
現れたのは縫いぐるみのように可愛いふわふわの小型犬だ。手足は赤ん坊のように短く、つぶらな瞳が愛らしい。ライズは特に犬好きでもなかったが、抱きしめて頬ずりしたいと思う程である。
「バウ! バウバウ!」
小さな番犬が足元を跳ね回る。
「か、可愛いっす!」
「吾輩、抱っこしたいのである!」
「俺もいいか?」
「チェストォオオオオ!」
「ぎゃいん!?」
三人が目を輝かせるのを無視して、ラビーニャは容赦なくメイスを振りかぶり、フルスイングで無垢な子犬を殴り飛ばした。
「うっは!? ラビーニャ!? なにやってんっすか!?」
「酷いのである! こんな可愛いワンちゃんを殴るなんて! ラビーニャには人の心がないのであるか!?」
「お前なぁ、流石にそれは人としてどうかと思うぞ……」
「騙されてはいけませんわ! 可愛い姿をしていても、この魔物からはおぞましい邪悪な気配がプンプンしていますわ!」
「なわけねぇだろ! おい、大丈夫か犬ころ」
「あんな鈍器で殴られて大丈夫なわけないのである!」
「頑張るっす! 自分がお医者さんに連れてってあげるっすよ!」
ペコが子犬を抱きかかえる。可哀想に、子犬は頭から血を流して震えている。
「くぅ~ん……くぅ~ん……」
「おやめなさい! 危険ですわよ!」
ラビーニャが詰め寄ろうとするので、ライズは前を塞いだ。
「ライズ!? そこをお退きなさい!」
「落ち着けよ。ただの犬だぞ」
「だから、あれは魔物だと――」
「うぎゃあああああああああああ!?」
ペコの悲鳴に振り返る。
「ひぃいいい!? わわわわ、ワンちゃんが!?」
「……う、嘘だろ!?」
先ほどまでの可愛い姿は何処へやら。子犬の姿は相手を油断させる為の擬態だったらしく、口の中から生肉色の触手を大量に伸ばしてペコの頭に絡ませながら、全身を裏返らせるようにおぞましい異形の怪物へと変貌しつつある。
「ほら! ほら! ほ~ら! ほら! だから! わたくしは! 言ったのですわ! 謝りなさい! 偉大なる聖女ラビーニャ様疑ってごめんなさいと三人とも土下座して謝るのですわ!」
疑われたのが余程堪えたのだろう、ラビーニャはムキになって喚き散らす。
「だぁ!? あとで土下座でもなんでもしてやるから、こいつを引き剥がすの手伝え!」
「いだいだいだいだいだ!? 頭潰れるっす!?」
「ひぃいいいい!? 来るのだ! キモい子犬モドキがあっちこっちからやってくるのである!?」
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