筆者後記

第20話  後書きに代えて

目の前が光った気がして、眩しくて思わず瞳を閉じた。

どうやら、もう夕暮れの様だった。瞳を開けた私の眼に、見慣れた喫茶店が広がっている。


「今日は随分熱心にパソコンに向き合ってましたね」

マスターに声をかけられて、私は普段持ち歩かないパソコンを不思議な思いで眺めた。

「珍しくカウンターに座らないし、普段注文しない珈琲飲まれるなんて、今日はどうかしたんですか?」

水のお替りを持ってきたマスターの言葉に、私は驚いた。


確かに、珈琲のカップが置かれている。普段この店に来る時は、紅茶を飲んでいた。


私は、目の前に誰も座っていない空間を何故か懐かしく思い、冷たい水を一口飲んでこの店に来たことを思い出そうとした。



私の記憶は、夜眠るところで終わっていた。起きて此処まで来た記憶がない。


それならばと、私はパソコンで何を書いていたのかを確かめる。



長い、懺悔の様な告白がそこに並んでいた。私は、「誰」にこの話を聞かされていたのだろう?


しかし、私はこの話を伝えなければならない気がしていた。これを話した「誰」かが、それを望んでいるのだから。



これを発表することは、私の精神状態も不安だ。この話に飲まれてしまうかもしれないから。闇に、堕ちてしまいそうだから。しかし、私にはもう分かっていたのだ。


「マスター、アールグレイをお願いします」



私は、再びパソコンに向き直った。


「私」の中の「私」の為に。




タイトルは、フォルダーに書かれていた。


『或る少女の話』


彼女と、彼女の全ての彼女に。そして、同じ『或る少女』達に向けて。私は、この話を投稿しだす。ゆっくりでいい、彼女の闇は深いから。読む人が闇に落とされないように、ゆっくりと悪夢を書き綴る。



そうして、願わずにはいられないのだ。


この物語が、フィクションでありますように、と。

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