第9話 医師の問いかけと、性の汚さ

先生の話はした?ああ、また忘れてた。話が前後したり抜けてたり、ごめんね。


そうね、仮に大森先生にするね。先生は父よりも下で、明るく気さくな男性。心療内科の先生は、患者の性質上気苦労が多いと思う。私から見ても、疲れているのを隠しているようだった。


「それは、誰かに話したの?例えばお母さんとか」

「いえ、毒親なので…」


母は、あまり他人の痛みに共感出来ない。その癖、悲劇のヒロイン振る。私が本当の話をしても、多分「仕方ない」で済ますと思う。これは、後に分かる。私はやはり、毒を見すぎていたから行動を予測出来ていた。


「今も同居?離れて暮らさないの?」

「ゴミは、家で寄生してるのでお金がないから出て行かないと思います。私も、母が世話しないと食事も摂らないので…」


そう言えば、屑の部屋から私が使用しなくなった体操着や、写真が剥がされた私の高校の生徒手帳を見付けていた。

生徒手帳は、何か細工をしていたのだろう。高校中退の、中卒だから。犯罪に使わられていない事を願う。

体操着は…もう、気持ち悪いとしか言葉がない。同じ人間とは思えない、汚物。


「解決策を見つけよう」


大森先生の言葉は、叶うとは思わなかった。だが、私は溜まっていた毒を吐き出さなければ気が狂いそうだった。大森先生は、私の拠り所になる


その頃、下着泥棒が続いていた。母のは取らないが、私の下着が何度も取られていた。

私は、嫌な気分だった。ゴミを疑ったが、犯人は割と早くに判明した。


刑事が、家に来た。私の家から一時間位電車で離れた繁華街の、外回り営業が犯人だった。私だけでなく、近所の若い人が狙われていたそうだ。

刑事は押収した下着が自分のものか、見て欲しいと言ってきた。近くの市民体育館を借りて並べるそうだ。

私は断り、母が代わりに行った。間違いなく私の下着があったと報告された。



男の性の汚さに、私は絶望していた。


気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。



早く死にたかったが、自殺する勇気は私には無かった。

誰か、私を殺して欲しい。


それが、私が寝る前に望む日課だった。

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