第15話 発現

 早希に馬鹿にされながらも、女の子はしゃんと立って大きな声で話し始めた。


 「佐方早希だな!?お前がいるという事は、その横のつまらない顔の男が『14号異形』のよりしろか!」


 つまらない顔呼ばわりに、怒りがこみ上げる。なんて言われようだ。


 「そう。彼が『14号異形』の依代。あなた達の探している人間よ」


 「名前は東江院とうえいん珠璃杏じゅりあ!お前たちをやっつける為にらいぶらりーから派遣されたとっても強い本使いだ!」


 女の子は東なんたらかんたらと名乗る。長くて覚えづらい。じゅりあちゃんだな。


 「あのさ……この子……」


 「えぇ、見ての通りよ。すごいオモチャをもらってはしゃいでいる子供ね。あなたなら命の危険はないだろうから、私は下がって見物しておくわ」


 早希はそう言うとじゅりあちゃんに背を向けて、近くの石段にハンカチを敷いて座った。じゅりあちゃんはその様子を見てさらに頭に来たようだ。


 「こらー!なんで座るの!じゅりあと戦わなきゃダメでしょ!!」


 「あ、あのさ、じゅりあちゃん」


 僕は恐る恐る話しかける。


 「話し合いとかでなんとかならないかな。ほら、お互いに傷つけ合うのは嫌だし、平和的に解決を……」


 「だまれだまれ!つまらない顔のくせに!じゅりあのいぎょうはすごいんだから!ウサギさんとかトランプの兵隊がブワーってなるの!『不思議の国のアリス』なんだよ!どうだ驚いたか!」


 二度目のつまらない顔呼ばわりにまたしても腹が立つ。それよりも、彼女は自分の『異形』をいとも簡単に僕に明かした。たしか早希はたとえ味方であろうとも、自分の『異形』を明かすことは対策を練られてしまう危険を侵すことになると言っていた。


 この子が本当に未熟で、ただのお子様である確率は高い。だが、もしも今のこの姿が僕を欺き油断させるための演技であったとしたら……想像はどんどん悪い方向へと向かっていた。


 「ふふーん、おびえてるな!じゃあじゅりあがすぐに楽にしてあげる!」


 じゅりあちゃんは僕に向かって走り出した。どうやら本当にただの子供のようだ。


 「みんな!やっつけて!」


 その呼び声に反応し、じゅりあちゃんの周りにボンッと小さな爆発が起き、可愛いぬいぐるみ達が現れた。二足歩行のウサギにトランプの兵隊、いかにも『不思議の国のアリス』に登場するキャラクター達だ。


 僕は向かってくるファンシーな軍団に立ち向かう。とはいえ、一体どう戦えばいいんだ。『異形』はまだ僕にはコントロールできていない。つまりホストに襲われた時のように、命の危険を感じなくてはならないのだろうか。


 「よそ見するな!」


 じゅりあちゃんはとうとう僕に肉薄する。軍団も僕を取り囲んだ。


 「しまった!?」


 「くらえっ!じゅりあのハイパーアリスアタック!」


 彼女はその小さくか細い手で僕の腹をポンと叩く。ぬいぐるみ達もペシペシと僕の足をはたいていた。


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