第13話 表題

 いつもと変わらない授業を終え、放課後僕は早希と約束した図書室に向かった。


 昨日の事件のことがあったので残っている生徒はまばらで、校内放送も早めに帰宅するよう呼びかけていた。


 「来たわね」


 図書室に入ると、早希はもう座っていた。他の生徒は誰もいない。


 「昨日はまだ知りたいこともあったでしょうに、無理やり帰らせてしまったわ」


 「まぁ早希が大丈夫だって言ってくれたから、そんなに不安はなかったよ」


 僕は早希と対面する形で椅子に座り、彼女の顔を見た。早希はにっこりと笑っている。


 「あなたは素直で従順だわ。いえ、思慮深く物わかりがいいと言った方がいいかしら」


 「お褒めいただき光栄だ」


 「それじゃあまずはあなたが何故狙われているか、簡単に説明するわね」


 早希はノートを取り出し、大雑把に図に描いて説明する。


 「あなたの取り込んだ『14号異形』は、世界に二十冊しかない『異形』の本の中でも特に危険度の高い一冊なの。すべての『異形』の本は『図書館ライブラリー』という組織が管理して、人々に害を与えないようにしているわ」


 「世界を守るいい秘密組織ってとこか」


 僕がそう言うと、早希は少しだけ悲しそうに苦笑いをした。


 「世界を守るなんて大それた組織じゃないわよ。『異形』の本の奪い合いだって珍しくない。いま日本に『異形』の本の大半が集まっているのも、五十年前に戦争が起こった結果なの」


 「じゃあ僕は、『幸せの鎖』を奪い取ろうとしてる他の組織の連中に狙われているのか?」


 「いいえ、『佐方家』は代々本の管理を生業として、『図書館ライブラリー』の中でも特別な地位を約束されているわ。君を狙った周って男は、佐方家には『異形』を管理する能力は無いってことにしたい、組織の中の一部の者の差し金ね」


 早希が図を描き終えた。世界の『異形』を管理している組織、『図書館ライブラリー』、その組織に所属する早希たち『佐方家』、そして権力争いをしようとしている派閥。どうやら僕はそんな渦中に『14号異形』こと『幸せの鎖』と共に放り込まれてしまったようだ。


 「そういうことか……わかった。僕にできる事は協力させてくれ。早希の役に立ちたい」


 「……君は優しいんだね。私に協力してくれるんだ」


 「僕に自分を信じるように言っただろ。もし『異形』を上手く扱う方法があるんだったらそれも教えてほしい」


 「なんだか罪悪感を感じちゃうな。こんなに真っ直ぐな君を……」


悲しい顔をする早希の手を握る。なぜだかわからないが、そうした方がいいような気がした。


 「突然どうしたの?」


 早希は平静を装っているが、顔が赤くなっている。きっと僕も顔は真っ赤になっているだろう。


 「あ、いや……なんでかこうしなきゃって思って」


 誰もいない図書室で、ほんの少しの間時間が止まった気がした。落ち着いてくると、手を握っているのが恥ずかしくなってきて、ゆっくりと解いて手を自分の方に戻した。

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