第12話 日常
教室に入ると、僕達は鞄を下ろしてそれぞれの席についた。早希の席には早くも人だかりができ、クラスメート達が挨拶に訪れている。一方僕の方に来たのは一人だけだった。
「よう!朝からつまんねー顔してるな!」
同じ中学出身の悪友、
「痛いんだが……」
「お前は毎日佐方さんに迎えに来てもらってるんだから、このくらいの痛みは甘んじて受け止めねぇとな」
「なんだその理論は……」
「あー!なんで同じ中学から進学して、お前だけがこんな幸運に恵まれてるんだよ!全校男子の憎しみをくらえ!」
猿取はビシビシと僕の背中を小突いた。早希と仲がいいことで、他の男子から嫉妬を買うことはよくある。目立たない僕が早希のせいで変な注目の的になっていた。
「朝から仲がいいのね」
日課のクラスメート達からの挨拶を受け終わった早希が、僕の席までやって来た。猿取はわかりやすく顔がにやけ、今度は僕の背中を撫で始めた。
「佐方さんおはよう!俺とこいつは中学からの親友だからさ、こいつは俺がいないと寂しくて泣き出しちまうんだよ」
「あら、君も可愛いところがあるじゃない」
「寂しくもないし、泣きもしないよ。猿取にはここでは口に出来ないマニアックな本を横流ししてやってるだけなんだ」
「ばっかお前!佐方さん!俺は平和を愛する清く正しい男だよ!」
猿取が取り乱している。その慌てぶりが面白かったのか、早希も僕に続いて猿取をからかった。
「マニアックな本ってどんな本かしら。詳しく教えてもらいたいわ」
「あはは!そういや俺、用事を思い出したわ!じゃあな!」
これ以上追求を受けると特殊性癖がバレてしまうと思ったのか、猿取は退散した。僕と早希はその様子を見て吹き出す。
「あなたって愉快な友達を持ってるのね。ちょっと羨ましいわ」
「何言ってるんだ……あいつが愉快なのは入学してからずっとだよ」
「そうだったわね。話は変わるけど、今日の放課後は図書室で待ちあわせをしましょう。昨日のこと、もっと詳しく説明しておかないといけないから」
そう言うと早希は自分の席に戻っていった。いつもの日常に忘れそうになっていたが、今の僕の中には『異形』が眠っている。彼女がその本について、それをどうコントロールするかを教えてくれるはずだ。
担任が教室に入り、チャイムが鳴った。クラスメート達が各々の席につく。担任は出席を取り終わると、昨日あったという事件について僕達に注意した。
「昨日、学生がこの近くの神社で若い男に襲われる事件があったそうだ。まだ捕まってないから、放課後は単独行動を避けて自宅までまっすぐ帰るように」
僕も昨日襲われたが、早希が見つけてくれて助かった。きっと早希以外では、あの得体の知れない男をどうにかできなかったに違いない。
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