第11話 変化

 朝の訪れと共に、暖かい光が部屋に差し込んだ。どうやら昨晩はいつの間にか眠りに落ちていたようだ。


 本棚に『幸せの鎖』を戻し、部屋を出る。この本はもう僕の中に刻まれているため、それ単体だけでは害がないそうだ。万が一家族がこの本を手に取っても、ただの古い絵本にしか見えないらしい。


 朝支度を整え、朝食を取って学校へと向かう。鏡花は部活の朝練ですでに家を出た後だった。妹は僕と同じ学校の一年生で、入部数ヶ月ですでに陸上部のエースとして一目置かれている。兄としては鼻が高いが、妹と比べてただ本が好きなだけの僕は学校ではそんなに目立つ存在ではなかった。


 「おはよう」


 玄関のドアを開けると、目の前には昨日知り合った謎の美少女、佐方早希がそこにいた。


 「え……おはようございます」

 

 「うん。家を出る時間はぴったりね。さぁ、学校へ行きましょうか」


 「色々と質問があるんですが……」


 「何?本のことは放課後にゆっくりと教えてあげるわよ」


 「いや、まずはなんで僕と同じ学校の制服を着てるんでしょうか?」


 早希さんはスカートをひらめかせてくるりと一回転する。


 「どうかしら?似合ってると思うんだけど」


 「あー……はい、似合ってますが……」


 「君と同じ学校に通っている同級生ってことにしたわ。これなら日中も君を守れるし、君と行動していても不審に思われないでしょ」


 転校というのは昨日今日ですぐに出来るものだったのか。そもそも、早希さんは同い年だったのか。僕の頭の中はすでに混乱している。



 ……



 「じゃあ改めまして、おはよう」


 「おはよう。毎朝毎朝迎えに来なくてもいいのに」


 同級生の早希が玄関を開けるとすぐに立っていた。家は結構遠いくせに、なぜか毎朝僕を迎えに来る。学校では僕達二人の関係についてあらぬ噂がたびたび流れたが、事実無根、僕達はただの友人なのだ。


 「鏡花ちゃん、大会が近いのね」

 

 「あぁ、あいつ限界まで無理するタイプだから少し心配だよ」


 「なら少しはお兄ちゃんらしく頼らせてあげなさいよ」


 「僕が頼れるお兄ちゃんに見えるか?」


 「無理ね」


 早希は言いたいことを好きに言って、僕に軽く精神的苦痛を与える。しかし彼女の歯に衣着せぬ物言いは、僕には心地良くもある。だから高校からの付き合いなのにここまで仲良くなれたのだろう。


 「そうだ。いくら助けるためとはいえ、昨日はよくも僕を蹴り飛ばしてくれたな」


 「あー……それは消せてないわけね」


 「……何を言ってるんだ?」


 「なんでもないわ。私の家の厄介事に巻き込んでしまってごめんなさい。出来る限り私はあなたの安全を守るから」


 僕は早希の家から何故か馴染みの古書店に流れてしまった危険な本、彼女の家が代々管理していたという『異形』を偶然にも取り込んでしまった。


 今まで『異形』のことも家のことも、早希が黙っていたことには驚いたが、昨日ついにその真実を教えてくれたのだ。


 


 

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