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 扉が開いた。アンティーク調の細工が施されたそれは見飽きる程に見慣れてしまったが、いざ自分がその外に出ることになると少しだけ、緊張した。

 名を呼ばれる。本名ではないそれも、もう呼ばれることは無いのだろう。見るとまだ十歳にも満たない子どもがいた。俺を兄と慕ってくれていた少女だ。血は繋がっていない。でも孤児の為の施設に住んでいる俺たちはそんな事は気にしない。血のつながりなんて無くても兄弟だった。


「お兄ちゃん、もう会えないの?」


 目を潤ませて見上げてくる。幼気な少女を見ていると何故かどうしようもなく切なくなり、ゆっくりとその頭を撫でた。


「大丈夫、すぐに手紙を書くさ。それまで皆に迷惑かけないようにな」

「うん!」


 幼い子どもは感情の切り替えが早い。さっきまで泣きそうだったくせに少女はもう笑顔になっていた。 それを見届けて、肩からずれていた荷物を背負い直す。自分を今まで育ててくれた施設への未練がないではないけれど、これからの生活に期待もしていた。


「……それじゃあ、行ってきます」


 扉に手をかけて一度だけ振り返る。育ててくれた施設長も、いつも一緒にいた子どもたちも、笑って手を振っていた。俺も笑っていた。満たされた気持ちで扉を閉める。


 道路脇に停められた乗用車。その前に、俺のこれからの「親」となる人がいた。その人が口を開く。


 その一言、たった一言だけで、



――俺の期待は打ち砕かれた。


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