第15話

 いくらファストパスの持ち主とはいえ、今動いているジェットコースターに乗ることは普通なら不可能なため、数分だけ待つことに。


 そして戻ってきたので乗れるようになった。


「巴さん、一緒に乗りません?」


「そうしよう」


 二人一組のタイプだったので、私は巴さんを誘ってみた。するとOKを貰えたので一緒に席に座る。


 楓さんや遥さん、翼が怖い怖いと言っているけれど、巴さんはいたって冷静に見える。


 見えるだけ。明らかに私の隣に座ることに緊張しているよこの人。


「巴さん、折角だから手を繋ぎません?」


 私はそう提案した。


「——!?構わないが、どうしてだ?」


 巴さんは声にならない音を発した後、何事も無かったかのように応じた。


 この人、なんで世間にクールキャラを通し続けられているんだろう……


「友達だからじゃないですか。これくらい普通ですよ。ほら!」


 私は強引に手を繋ぐ。予想通り手は緊張で汗ばんでいる。


 だからといって嫌悪感があるわけではなく、単純に面白さが勝つ。


「もう上り始めますね」


 と言った頃には爆速で上昇を始め、いつの間にか頂上についていた。そして急にストップし、今から落下するんだぞという恐怖を存分に味合わせてから落下する。


 前からも後ろからも絶叫が聞こえてくるけれど、正直私や巴さんのような魔法使いにとっては怖いわけでは無いのよね。


 前世ではこれくらいのスピードで飛び回るのは結構普通の話だったし。


 ということで私は巴さんの様子をずっと観察していた。




「いやあ楽しかったね!」


「本当に!最高だった」


「全然怖くなかったね!」


 と語るのはジェットコースターが急上昇する際に「無理無理無理!」とか「助けて!死にたくない!」とか「止めてくださいお願いします!」とか祈りを捧げていた翼と遥さんとサクラさん。


「じゃあもう一回乗らない?」


 と提案するのはココロさん。非常に悪い顔をしていらっしゃる。


「別のにも乗りたいから良いかな~」


「そうだよ、アトラクションは一杯ありますし!」


 本当に怖かったらしく、全力で避けようとする3人。それを見て私たちは笑っていた。


「じゃあ次はここに行きたい!」


「良いね!」


 凜の提案と楓さんの同意により、次のアトラクションもジェットコースターに決定した。


 全力で避けたい3人ではあったが、ジェットコースター自体は楽しいと言ってしまった手前、断ることは出来なかったようだ。


 止める者が居なくなった結果、ジェットコースターが大の得意だと判明した凜とココロさんと楓さんの意見が全て通ってしまう。


 その結果、5連続でジェットコースターに乗ることになった。


 そして、


「ジェットコースターはやっぱり楽しい。速くて爽快!」


「分かる!めちゃくちゃ楽しかった」


「今度機会があったら富二急3人で行かない?」


「「行く!」」


 とジェットコースターの楽しさが分かることで意気投合し、次回の予定まで決まった凜、楓さん、ココロさんと、


「これでもう終わりですかね?」


「うん。そのはず」


「良かった……」


 とあまりの怖さに意気投合し、妙な仲間意識が生まれた3人が居た。


「皆楽しそうで良かったです」


 とその光景を見て嬉しそうに微笑むのは、ジェットコースターを怖がる気配も無く完全な自然体で乗り切った瑠奈さん。


「瑠奈さんはどうだったんですか?」


「風が気持ちよくて、景色もコロコロ変わるからとても楽しかったわ」


 楽しみ方としては合っているし、それが魅力ではあるのかもしれないけれど、コメントがドライブに行った人なのよね。


 私、ヒミコ、巴さんの3人は前世からの魔法使いだから猛スピードで振り回されるのには慣れているから平気なのは普通なんだけれど、この人はそうではないのよね?


 こっそりとヒミコさんに聞いてみるが違うとの事。流石母性。


 丁度昼になったので近くでご飯を食べることに。


 とはいっても遊園地の中なので豪勢な食事が出来るというわけでもなく、簡単にうどんなどを食べて済ませた。


「じゃあコーヒーカップ!」


 食事を済ませた後、真っ先にそれを提案したのはサクラさん。ご飯を食べたことで完全に立ち直った様子。


 元気に提案したは良いものの、流石にこれに対しては否定的だった。


「コーヒーカップは楽しいけれど、ご飯を食べた後に行くものじゃないわ…… 絶対全力で回すでしょ?」


 皆の気持ちを代弁し、サクラさんを諭すのは瑠奈さん。


「そりゃあ回すけど……」


「別にいずれ行くんだから後にしましょう?」


「分かった」


 サクラさんは納得したようで、別の所へ回ることになった。


「お化け屋敷に行きましょう!」


 とその代わりに提案したのは翼だった。


 私たちが選んだのは遊園地の中でも少し高い方にあるお化け屋敷。この遊園地の中でも特に怖いことで評判のものだ。


 翼がそれを提案した瞬間に皆が大賛成して、どれに行こうかと考えた結果、これが一番怖いからという理由で選ばれたのだ。


 そこまでお化け屋敷って人気なんだなあって思いつつ私はその流れにそって付いていった。


 流石にジェットコースターと違い、10人で同時にというわけにはいかないので2人組を組んで順々に入っていくことに。


 結果、巴さんと凜、ヒミコと遥さん 翼とサクラさん、ココロさんと楓さん、私は瑠奈さんという組み合わせになった。


 順番はじゃんけんで決めようと提案したのだけれど、何故か満場一致で私たちが一番最初になった。


「じゃあ行きますか」


「そうね」


 私たちは受付を済ませ、中に入る。


 中は非常によく出来ており、作り物と分かっていても恐怖を引き出させるものだった。


「手を繋いでもらってもいいかしら?」


 そんな感想を抱いていると、瑠奈さんからそういう提案があった。


「苦手なんですか?」


「少しだけね」


 ジェットコースターは平気な瑠奈さんでも、ちゃんと怖いものは怖いようだ。


「分かりました。私が居れば安全ですよ」


 別に私が居なくても安全ではあるのだけれど。


「ありがとう」


 瑠奈さんは私と手を繋いだ後、ガッチリと手を組んできた。同じ女性ながら、すごくいい香りがするわ。香水をつけているわけでもないようだし、どうすればこうなれるのだろうか。


 瑠奈さんと密着したことで、私の方が安心してきたわ。恐ろしい光景が広がってはいるのだけれど、今なら穏やかにお茶でも出来そうだわ。


 私たちは順路通りに進む。


 舞台は廃病院。助からなかった患者たちの霊が残り続けているという設定だ。


 ガシャン!

 という音と共に白い煙がこちらに吹き付けてくる。窓ガラスが割れてしまったようね。


「きゃあああああああああ!」


 隣からは、鼓膜が破れそうなレベルで爆音の悲鳴が。これは瑠奈さんね。今までの母性とか清楚さとかを全てかなぐり捨てているわね。


 歌が非常に上手いという話は聞いていたけれど、まさか絶叫を聞いて体感するとは思わなかったわ。


 そしてそれからも、


「きゃあああああああああ!」


「ギャアアアア!」


「キエエエエエエエ!!!!!」


 と、何かしらの仕掛けが発動するたびにバラエティ豊富な悲鳴がお化け屋敷内を響き渡る。


 これまで作り上げてきた瑠奈さん像は間違っていたのかもしれないわ。


 そして、何故私たちを最初に選んだのかもよく分かったわ。


 滅茶苦茶面白いものね。後ろからバレないように尾行すれば瑠奈さんの全絶叫を余すことなく見られるものね。


 現にヒミコと巴さんはペアでは無いのに同じ場所に反応があるし。


 私はそれに気付かないフリをしてお化け屋敷を出た。


 それから間を開けて、何事も無かったかのようにペアで順番に出てくる残りの人たち。


「いやあ楽しかったね」


「適度に怖かったよ」


「うんうん」


 と皆はお化け屋敷が楽しかったと白々しく感想を述べていた。


 それから私たちは、コーヒーカップ、メリーゴーランド、ゴーカート等、ありとあらゆるアトラクションを順々に回っていった。


 皆の表情も明るく、非常に楽しそうなものだった。


 それに、巴さんが私たちと仲良くするという目標も、無事に成し遂げることが出来ていた。中々巴さんは積極的にアクションを起こすタイプでは無かったので、裏で私が凜や翼をけしかけていたのだけれど。


 でも、それが無かったとしてもいずれ仲良くなることは出来たでしょうけど。3人とも良い子だからね。


 そして、ほぼ全てのアトラクションを回り、残るは観覧車となっていた。


 定員は4人までらしく、3,3,4で別れることに。


 その結果、何故か『magic stars』と巴さんの4人で乗ることになった。

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