第14話

「コラボの依頼か、珍しいね」


「でもどうだろう」


「誰?この人」


 唐突なコラボ依頼に大原さんは興味を示したようだけど、翼はあまり好ましくない、凜はそもそも知らないという反応だった。


「皆はどうかな?」


 大原さんはここにいた全員に意見を求めた。


「私は反対です」


「私もかな」


「よく分からない」


「相手は私たちよりも著名な方ですし、受けて損はあまり無いとは思いますが……」


 秋と翼は反対、凜と森川さんは決めきれていない。


「一応受けないことに決まったけどアリス君は?」


「私は受けることも吝かではないって感じです」


「その理由は?」


「純粋にその道で有名になった人がどんな人なのかに興味があって」


 これは純粋な気持ちだ。前世も今も実際にあったことの無いタイプなので、純粋に人として気になる部分がある。


 それに、この現代において人を扇動出来る人間の手法は是非とも学んでみたいと思うし。


「でも皆が否定的のようだからやめた方が良いかも。正直怪しいし」


 自分の興味本位で皆を危機にさらすのは本意ではないからね。とは言ってもこの間程不味い事態になる事はそうそうない気はするけど。


「オッケー。じゃあ断ってしまおうか。知名度は高いけど、何よりも3人が楽しんでアイドル活動することが何よりだからね」


 という大原さんの言葉でコラボ依頼は拒否し、無かったことにすることに。


 それから数日後、『YAMA』の3人がライブでこちらに来るらしく、どこかで遊ぼうという話になった。


 色々と話し合った結果、サクラさんの提案で遊園地に決まった。


 予め3人の服装を伝えてもらっていたので待ち合わせ場所の遊園地前に着いてすぐに見つけることが出来た。


「おはようございます!って多くないですか!?まさかメンバー増量!?」


 元気よく挨拶をした翼が、この場に7人居たことに衝撃を隠せない様子。


「あ~これじゃ分からないよね。外そうか」


 ヒミコさんに指示された4人は、顔を隠していたマスクとサングラスを外した。


「あ、『ARROWS』の皆さん!私は翼って言います!皆さんの事が大好きです!握手してください!」


 その正体にアイドルオタクの翼は一瞬で気付き、迷うことなく肉体的な接触を求めていた。


『ARROWS』の方々はそんな翼を快く受け入れ、握手に応じていた。


「翼ちゃんが喜んでくれてよかった~!」


 そんな様子を見たココロさんは嬉しそうにしていた。恐らく翼の為に呼んでくれたのだろう。


「翼ちゃんは前々から知っていたようだけど、一応初対面だから自己紹介でもしようか」


「はい!改めて日野翼です!」


「私は星野アリスです。よろしくお願いします」


「蒼井凜です。よろしくお願いします」


「じゃあ今度はこちらから。私が『ARROWS』のリーダー、巴。よろしく」


 淡々と挨拶をしたのが巴さん。スタイル抜群でキリッとした顔をしているため黒髪ショートが非常に良く似合う女性。白いシャツと黒いズボンというシンプルな格好だけれど、それだけで様になっていた。


 これだけだとクールで冷静な人に見えるけど、翼と握手した直後にガッツポーズしかけたり、手をずっと開いたり閉じたりして手の感触を噛みしめていたりと、喜びを全く隠せていないわ。他の人は気付いていないみたいだけど。本当にファンなのねこの人。


「私は楓。よろしく!」


 楓さんはピースサインと共に元気に挨拶した。身長は低めで、綺麗な茶色に染まったショートボブ。キャップを被り、赤いシャツとグレーのワイドパンツという動きやすそうな格好で、楓さんの雰囲気にマッチしていた。ちなみに翼は今すぐにでも背後に回り込み、お腹あたりを抱えてだっこしたり、頭を全力で撫でたそうな表情をしているわ。


「瑠奈です。よろしくね」


 瑠奈さんは遥さんとは対照的に落ち着いた印象。とは言っても巴さんのようなクール路線ではなく、母親というか母性を感じさせる。身長は普通くらいで、服装は純白のワンピースで母性がさらに演出されている。特徴の一つである綺麗な黒髪ロングはものすごく丁寧に手入れをしてあるのが伺える。ちなみに翼はその綺麗な髪と豊満な胸に釘付けで、どう合法的に堪能しようかと頭を働かせているわね。


「私は遥!よろしく!で、3人共ハグして良い?そして色んな所撫でまわしても良い?」


 初っ端おじさんでもしないレベルのセクハラをかましてきたのは遥さん。楓さん同様元気という印象を受けるけれど、性質的には騒がしいに入る部類で、少し違う。金髪のミディアムで、服は茶色のチノパンによく分からない柄のTシャツ。別にダサいとか言いたいわけでは無いけれど、私には理解できないかもしれないわ。ちなみに翼は遥さんからのセクハラを利用して遥さんや他のメンバーに対して事故を装ったボディータッチが出来ないか画策しているわ。


「さて、挨拶も済んだことだし中に入ろうか」


 ヒミコの提案によって、そのまま私たちは遊園地の中へ。


「アレ乗ろう!早く!」


 中に入るや否や目の前を通ったジェットコースターに目を輝かせ、乗ろうと言ってきたのは楓さん。


 この遊園地の看板アトラクションだったので誰も嫌がる人はおらず、乗ろうという話になった。


 そのジェットコースターの名前は『シャトル』。超高度から90度の角度で落下する日本最高峰の怖さを誇るジェットコースター。これに乗るためだけに全国各地から絶叫好きが集結しているらしい。


「結構並んでいる人居ますね」


「そうだね」


 翼の言う通り、ジェットコースターには数えきれないくらいの人が行列を作り上げていた。看板を見る限り、60分待ちとのこと。


「大丈夫、問題無いよ」


 そう言ってヒミコさんが取り出したのは人数分のファストパス。行列をすっ飛ばせる秘密のアイテムだ。


「これは神のアイテム……!」


 真っ先に反応したのは凜。何度も来たことはあっても一般人には一度も使うことの許されなかったアイテムに感動を隠せないらしい。


「いいんですか……!?」


 先程まで翼とがっちり腕を組んで触れ合いを堪能しどこかへトリップしていた楓さんが恐る恐る聞く。


「勿論。先輩だからね。やっぱり遊園地に来たなら全部制覇する勢いで回りたいでしょ?」


 何とも太っ腹な先輩だった。


 確かにこの遊園地は普通の遊園地の比じゃない位アトラクションの数が多く、行列に並んでいては確実に半分すら回れないだろう。それを思案したヒミコが気を回してくれたのだろう。


「「「ありがとうございます!」」」


 全員そろってヒミコに感謝を伝えた。


「どういたしまして」


 そう返すヒミコ。その裏で落ち込んでいる女の子が一人。巴さんだ。財布の中にはかなりの数のファストパスが詰め込まれている。ヒミコと同じことを考えて準備して来てくれたのだろう。多分私たちにカッコいい所を見せたいと思ったのでは無いだろうか。


 巴さんは今日で私たちと仲良くなろうと計画しているようで、ここに来るまでの間私と凜の間に挟まれて歩いていた。そして会話が途切れてしまわないように私たちに話題を何個も提供してくれていた。


 今回巴さんには絶対喜ばせて帰らせると強く心に決めたわ。

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