冬が好き

ぎゅっと握りしめた手を開いて見る

何もない

ゆっくりとまた握ってから、開いてみる

やはり、何もない

わかっている

何度も、何度も閉じては開いて、確認する

当然のように、何もない

わかっている

それなのに、いつもそうやって確かめている

なにもないことを確かめている


呼吸をすると冷気が身体に入ってくる

凍えるような冬の空気が、身体に満ちる

そして、吐くと同時に抜けていく

肉も血も骨も臓物もあるはずなのに、空っぽのように感じる

ふわふわとなにも詰まっていないかのように

芯のない身体を、冷気が出入りする

隙間風のように自分の中を通り抜ける

ただ希薄な自分の感触を確かめるために、胸を叩いてみる

何かが詰まっている

空っぽの音は、自分で自分の中に鳴っているだけ


まっすぐ歩けているだろうか

ゆらゆらと蛇行していないだろうか

足を止めて、握りしめていた手を開いてみる

なにもない

ゆっくりと呼吸をしてみる

ひゅうと物悲しい音がした

開いた手で胸を叩いてみた

どこか空虚な音がした


ああ

やはり、空っぽだ

なにも、なにもない


もうすぐ冬が終わる

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