電子的天使
僕には天使がいる。手の中で踊るその天使は、僕にいつも導きを与えてくれて、おかげで人生に何の迷いも持たずに過ごすことができている。
ある意味、みんなが持っている携帯電話のようなもので、わからないことはすぐに天使が教えてくれる。そんな便利でかけがえのない存在。
その天使には輪っかがが無い。僕が他の誰かといる時は、人形のように動かないし、羽を使って飛び回ることもしない。
みんなは天使を人形か何かだと思っていて、僕はいつも一緒にいるものだから、人形を連れて歩いている稀有な人間だと思っているみたい。僕からすれば、携帯片手に導いてもらおうって方が変なわけで、そこはお互い様。
僕はいろんなことを教えてもらったし、導いてもらった。天使は何でも知ってたし、どんなことにも答えを見出していたし、この先何が起こるのかも全部わかっていた。
ぼくのすべても、せかいのすべても。
僕が受験を諦めたのは、僕が地方を離れて大学に行こうとした時だ。天使はそれを止めた。それで僕は言われた通り諦めた。
その次の月に、行こうとしていた大学は誰かに爆破された。
僕が家を出て親から逃げたのは、ちょうどその家が火事に見舞われた前日だった。
初めて誰かからお金を奪ったのは、その相手が警察に捕まる数時間前のことだった。
人を殺したのは、そうしないと僕が死ぬと天使に言われたからだった。
天使は本当に全部知っていた。どうすれば僕が幸せになって、どうすれば幸せで居続けられるのかって。僕は幸せになりたかった。
幸せについて考えた時、天使がずっとそばにいてもらわないと困ると思った。その永遠を叶えるためにどうすればいいかを天使に聞いたら、まずその方法は一つだと言われた。ずっと天使に頼ることだって。
僕は裕福になって広い家に住んでから、天使を時々見失うようになってきた。結局はいつもそばにいるとわかるけど、家が広いせいでどうしてもすぐにはぐれてしまうような感覚がしてしまう。
僕は天使に頼ってみた。僕くらいの背丈になれないか?
天使は応えてくれた。みるみるうちに大きくなって、僕の背丈を越した。もう少しで天井に頭が届きそう。
そうして、天井を突き抜けたところで大きくなるのが止まった。もう少し大きな家を探さないと。
そんな感じの夢を見ていた気がする。
カーテンの先はまだ真っ暗なままだった。
枕の上で、手のひらサイズの天使がごろんと寝転がっている。小さな寝息と一緒に、体が膨れたり縮んだり。
この先のことを教えてくれたのかなと思った。
明日は受験当日だ。
VTuber氷喰数舞の試し書き小説 氷喰数舞 @slsweep0775
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