勉強がしたい
シヨゥ
第1話
僕は勉強ができない。いやできないわけではない。クラスでは中の中から中の上ぐらいの成績だし、中にはクラス上位に食い込んだり食いこまなかったりする教科もある。
僕は勉強が長続きしない。こう言ったほうが正確かもしれない。どうしても短距離走みたいに短期集中でどうにか合格点を目指す形になってしまう。
僕はもっと上を目指したいのだ。というのも高校卒業後は夢の大都会東京に進学することを目指している。親の目のない素晴らしいモラトリアムを過ごす。そんな壮大な夢があるのだ。
その夢をかなえるためにも楽がしたい。だから指定校推薦枠を勝ち取りたいのだ。現状でも楽に取れる大学の枠はある。だがモラトリアムを謳歌した後のことを考えると無名大学より有名大学のほうが箔がつくというものだ。どれだけ遊び惚けていても「東大卒」の肩書があればどうにでもなる。そう思うのだ。
「というわけで先生。どうやったら勉強を習慣化できますか?」
「クズみたいな理想を掲げたあとによくその質問ができるな」
アドバイスを求められた担任はぼくの意識の低さにびっくりしている。
「とはいえだ。勉強をしたいという気持ちを持てるなら理由は何でもいいだろう」
「でしょう?」
「卒業後のお前が心配になるがな」
担任は大きくため息をついた。
「アドバイスは1つだ」
「はい」
「毎日できることから始めろ」
「毎日できること、ですか?」
「ああ。勉強につながる動作の1つを毎日行うことを目標にするんだ。例えば家に帰ったら10分はノートと教科書を開くとかな」
「勉強はしなくてもいいんです?」
「その勉強を毎日するのが辛いんだろう? ならしなくてもいい。ただ10分間何もせずに座り続けるっていうのは辛いもんだ。そして時間がもったいないと思えてくるはずだ。そうしたら10分は勉強するかって気持ちになる。そうしたら儲けもんだ。いつのまにか毎日10分は勉強するに目標が変わる。そうやって目標をステップアップさせていく」
「なるほど。先生もそんな感じで?」
「そうだ。こうやって勉強を教えているが、俺は今も勉強が大嫌いだ」
「それ誰かに聞かれたら」
「俺は勉強が大っ嫌いだ!」
「叫ばなくても」
「だからお前たちの気持ちがわかる。分かるからこそこうやってアドバイスできるってもんだ。まぁ励めよ少年。お前たちぐらいの年齢なら努力次第でいくらでも人生は変えられるさ」
これで終わりとばかりに僕の肩を叩いて担任は去っていく。いつもはだらしのない中年とばかり思っていたが今はかっこよく見える。
「とりあえず真似してみるか」
いつもは置きっぱなしのノートと教科書を鞄に詰め込み家路を急ぐ。今ならできそうだ。そんな思いが僕を突き動かしていた。
勉強がしたい シヨゥ @Shiyoxu
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