第62話 “愛”を伝える文化祭③
【恋愛ゲーの世界で謎を解きながらモブキャラ攻略に励む宮田景人。
体育倉庫に千代と閉じ込められ、あわやR18展開になる所で城花が。
彼女の救助によって無事に脱出成功。そして文化祭が始まり……】
「――いらっしゃいませぇ」
思わず語尾が下がるほどに、俺は自分がやってしまった後悔に今更ながら後悔する。
何故あの時にもう少しだけ食い下がらなかったのか。何故あの時一目でも見ておかなかったのか、と。
「しっかり並んでくださーい」
俺のようなウェイター衣装を着た目つきの悪い男がどうして看板持ちをする羽目になったのかを再度考える。
しかし思考すればするほど、主に千代が企てた企みを薄々感じてしまいため息を吐く。
(……いかんな。やるからには真面目にやろう)
「やっほい来たよん!」
と、最後尾のプラカードを持った俺に近づいてくる一人の女子生徒。
既に文化祭を相当に楽しんでるのか、テンションが非常に高く見えた。
「最後尾こっちでーす」
「ウワッ! 業務的な対応マジテンサゲで萎えるんですけど!?」
出てる出てる。今までで一番ギャル感出てるぞ東郷可憐。それも悪くはないが……。
「隣じゃなくて前に並んでくれっ」
小声で可憐に忠告をすれば、彼女はあっさりと要求を飲んで引き下がる。
普段は非常に真面目な奴なのだが、こういう行事ごとになると穂乃花と同じで人一倍元気になるな。
「ってかメッチャ人来てんねー……悔しいけどアタシん所より多いかも」
「いやだって可憐のクラスは出し物の内容が――」
つい彼女のペースに乗せられてしまい、素の会話を始めてしまっていたところで気づいた。
こいつ首からカメラを吊り下げてやがる。一体何を撮るつもりなんだよ。
「バレちった~」
「部室に無かったのはそういうことか……」
しかしまあ料理だとか店の内装は写真撮影OKであるため、特に咎める必要性も無い。
むしろ可憐ならそういったものを拡散してくれるだろうし、その結果で二日目の客足も変わってくるだろう。
「で、何を撮るんだ?」
「まずは一番映えるメニューと超カワイイお店っしょ」
ふむふむ。やっぱり写真部員として素晴らしい行動を取っているな。
「そしたらミクミクのメイド服と千代のメイド服を撮る!」
やっぱ前言撤回。こいつ明らかに自分の欲を満たすために持ち出してやがる。
春野さんはともかくとして、可憐が千代の写真を撮りたいのは絶対にからかうためだろう。
「てことだからヨロシ――「人物の写真撮影はNGです」……デスヨネー」
全く油断も隙も無い。可憐と千代の因縁もそろそろ解き明かしていきたいところだ。
「……ま、でも宮っちは撮れたしいっか」
「? 今なんか言ったか」
「何でもないよん」
午前十一時。文化祭が始まった頃と比べて、流石に客の数も減ってきた時間帯。
とはいえお昼になればまた増えるのは明白。俺もここで“ふんどし”を締め直していこう。
「本場フランスのドリップ・コーヒーはあるかい?」
「ねーよ」
いきなり万能系イケメンが現れた。中弛みしていた所で、よりにもよって現れたのがセンリとは……。
背後から見える“西園茜璃信者”の視線を気にしつつ、俺は彼女の首元を確認する。
どこかのギャルとは違ってカメラ等も持って無いようなので、安心して対応できそうだった。
「フフ、本当はいの一番に向かおうかと思っていたんだけれど……」
「朝早くに行ったらキミも大変だろう?」
そんなイケメンスマイルで言われたら俺は頷くことだけしかできない。
実際のところ彼女の気遣いは助かったし、そういう面では本当に頭が回って機転の利く素晴らしいやつだ。
「……おい」
「何かな?」
センリは俺を追い詰めると、そのままの流れで壁ドンをしてきた。
背の高さも殆ど変わらないが故に、視線を合わせたら丁度目と目が合う。
「キミの服装は思ってた以上にボクを喜ばせてくれるね」
「ここがメイド喫茶と分かってての発言か、お前……っ」
大きくて青が混じったその瞳に見つめられれば、男も女も拒否することは出来ない。
こんな白昼堂々と、千代に続いて俺は辱められてしまうというのか……!?
「ぐう」
「!」
「!」
――突然、小さな音が鳴った。どこからか音の出処を探ったが、明らかにセンリからだ。
もっと詳しく言うのならば、センリのお腹からその小さく可愛らしい音が鳴ったのである。
「……とりあえず、ここで喰ってけ」
「食欲には勝てないのさ、誰もね」
何やらカッコ良く言い放ったが、少なくとも今日一番くらいにギャップ萌えを感じるくらいには可愛い。
珍しいセンリの赤面を拝みつつ、彼女を遠目から見ていたファンの方々もまとめて店で喰わせることに成功した。
「来たよーお兄ちゃん!」
「お、いらっしゃいま……」
休憩時間に入る直前、特に見知った顔が店の前に現れる。
我が妹である宮田かなめが友達と共にやってきたのだが……。
「まさか貴方が真面目に働いてるとは思いませんでした」
「いきなり酷いこと言うな――美子ちゃん」
その友達とは、まさかの春野さんの妹である春野美子。
よく考えればかなめがよく連絡を取ってるのは知ってたし、こうなる可能性もあったか。
「あそっか、お兄ちゃんと美子ちゃんって会ったことあるんだね」
「一度だけ、な」
「…………」
一先ず彼女達もお客なわけで、もう行列なんて無くなったこともあり軽く談笑をする。
聞けばこの二人は朝も早くからクラスでやる出し物の準備をずっとしてたらしい。
「クイズ大会だったか?」
「うん! 午後と明日もあるから、お兄ちゃんも来てねっ」
当然行くつもりだったが、そんなに可愛らしい笑みを向けられては出るだけで満足できなそうだ。
優勝して妹から「お兄ちゃん凄いね」って褒められてもらいたい欲が出てきたぞ。
「なにやら考え事をしてるのがバレバレですよ……やはり変態」
「考えてたのは事実だが、その反応はまことに遺憾だ」
――隣にかなめが居るからだろうか、初めて会った時よりは打ち解けた気がする。
ことあるごとに俺を性犯罪者予備軍的な見方をするのだけは勘弁してほしいが。
「良いともだちだな、かなめ」
店内に入っていった二人を見送りながら、耳に入る彼女達の声を聞く。
春野さんと穂乃花の嬉しそうな声を聞くだけでも、充分に良い仕事だな。
「はい、お疲れ様」
「あ~疲れた……午後からやる奴には後で言っといてやろう」
チャイムが鳴り、文化祭――特に出店を運営しているクラスは一先ず交代の時間となった。
俺は客が居なくなった教室に久しぶりに足を踏み入れる。
「ナイス呼び込みだったよ~景ちゃん」
「お、お疲れ様です! これ、私が淹れたコーヒーなんですけど……」
「良かったらどうぞっ」
何だここは天国か。メイド服を着た天使が二人も居るんですけど。
「一応わたしも着てるんだけど、あんたわざとやってる?」
背後から蹴りを入れてくる武闘派メイドの千代。その服でキックはやめた方が良い。
一先ず俺は席に座ってコーヒーを楽しむと、四人で前半戦の感想を言い合って休憩をした。
「俺をあそこに配置するよう考えたの、千代だろ」
「あら、良く分かったわね」
意外とばかりに驚かれるが、どう考えてもそういう意図が読んでたのは分かる。
例えば俺が料理係だった場合は、ヒロイン達が来ない可能性もあっただろう。
「そんなことしなくても、あいつらなら来ると思うぞ」
「万全を期すためよ。少しでもプラスになるよう考えなきゃいけないから」
というか、別に表立って出るのならそれこそウェイターで良かったのではないか。
どうしてわざわざ教室に追い出される形で看板を持たせられたのか。
「そりゃあんた……私たちのメイド服ばっかり見て真面目にやらなそうだからよ」
「えーっ! それは知らなかったよわたし!」
「やっぱり宮田くんってこういう服、好きなんですね」
……俺って普段どういう印象を持たれてるんだろう。
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