第48話 出会いと別れの海 [前編]
【自身の家でお泊り会をすることになった宮田景人。
穂乃花・可憐・春野の三名+妹と共に勉強やゲームなどをして過ごした。
しかし、深夜の出来事から目が覚めるとそこに春野の姿は消えており……】
――俺は、息も絶え絶えになりながら学校からこの場所まで辿り着く。
「あら」
息を落ち着かせながらインターホンを押し、家主が出てくるまで待つ。
もしかしたら今は居ないかもしれない。なんて考えは頭にはなかった。
「なにか、聞きたげな顔ね」
闇野暗子。扉を開けて出てきた彼女は、まるで来るのを分かってたかのように笑う。
説明書の通り、この時間帯で家に居たということは部活には入っていないらしい。
しかし何故か制服を着ている。理由は分からないが、それも含めて聞いてやるよ。
「悪いが……山ほどあるぞ。今日で全てを知りに来たからな」
以前にも聞いた「入りなさい」の言葉と共に、俺は玄関に足を踏み入れた。
***
「あなたが家に来たのは、もう一か月以上前になるわ」
「…………」
闇野が言うようにここには久しぶり来たが、構造は案外覚えている。
家に入って続く廊下を抜け、左手に曲がった先にある部屋が彼女の自室。
前と同じくそこに案内されたわけである。嫌な予感は結構しているが……。
「お茶、いるかしら?」
変わらず不敵な笑みを浮かべながら、そんな事を聞いてきた。
どうせそれに“睡眠薬”でも入ってるだろ。と言うことも可能だがやめておこう。
何故なら俺は客人で、突然やってきた者としての礼儀には答えなければならない。
「ああ、助かる」
(…………)
この部屋にいると、現実世界を思い出す。難しい表現だが、変な安心感があるから。
ゲームの世界に居る身でありながら、ここは既に何度も来たことがあるような感覚。
それが俺の気のせいなのか、何か隠された秘密が理由なのかはまだ分からないが。
「はいどうぞ。もしよかったら、毒見しましょうか」
「いや結構。今日に限って言えば何も入ってないだろ」
俺がそう答えると、闇野は嬉しそうに笑いながら机の上に湯呑を置いた。
立ち上る湯気が揺れ、昇り、天井にたどり着く前に消えてゆく。
「……それで、あなたが聞きたい事は何かしら」
二人してそんな光景をぼーっと見つめ、俺が視線を落としたと同時に目が合う。
他の誰よりも出会う回数は低いけど、今は不思議と落ち着く存在ともいえる。
「昨日」
「春野さんが家に泊まりに来た」
闇野の眉が、ほんの少しだけ動いた。驚いてるのか? それとも動揺しているのか。
俺はそのまま
「今日、学校で写真部の集まりがあったが……
俺の家には穂乃花と可憐の二人しか泊まりに来ていないと皆言っていた」
「勿論、春野さん自身も」
「彼女が消えた原因は、お前が前に言った“アップデート”なのか?」
俺の問いかけにも闇野は答えない。目を瞑って、何かを考えているようだが……。
一体どれほど経っただろう。体感時間は約数分ほどの、無言で静かな時間。
「――それは違う。でも、私はあなたの疑問に答えることが出来るわ」
ゆっくりと瞼を開き、俺にとって希望となり得る言葉を言い放ってくれた闇野。
だが、それを簡単に教えてくれる奴なのかと問われればそれは当然NOであろう。
「ただし、それを知りたいならば一つお願いがあるの」
「外に来て」
俺がその願いを断るつもりは毛頭ない。首を縦に振って、出されたお茶を飲み干す。
一体どんな内容なのか。不安と少しの期待を胸に秘めながら二人で家の外に出た。
「……なんだ、それ」
玄関の横にあるガレージ。その前で待っていてと言われてからまだ二十秒程か。
手際よくシャッターを開けると、車の無い広々とした車庫……に一つの乗り物。
「自転車よ。もしかして見たことがないかしら」
「いやそういう意味じゃなくて……ああ、何となく分かっちまった」
言い方は悪いけど、少しぼろっちい自転車。そのサドルに座るよう促される俺。
本来ならば禁止されてる行為だが、誰もが人生で一度はやったことがあるだろう。
「目的地まで、ちゃんと案内してくれよ?」
俺が自転車に乗れば、闇野はその後ろに乗る。つまりは二人乗りというわけだ。
正直、久しぶりに自転車を使うのでそういった意味での緊張の方が大きい。
密着されるのもそうだが、それよりも事故を起こさないよう気を付けないとな。
「ええ。今から向かうのは……とても思い出の場所」
腰に手を回されながら、耳元で呟かれる意味深な言葉。
だがまあ今は考えなくても良い。今だけは、吹く風の気持ちよさを感じておこう。
闇野の指示を受けながら、ペダルを漕いで道をぐんぐん進んでいく。
「私とあなたが初めて出会った海よ」
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