閑話② ゲームセンター3本勝負

 この物語は、第42話~第43話の間で起きたお話。


―――――――――――――――――――――


「おつかれー」


夏休みが始まって数日。写真部である俺たち四人は今日も部室に集まった。

内容は期間内に撮った写真の振り返りや、近々来る展示への参考も兼ねている。


「いつもより早く終わってしまったね

……まあ、今回はボクが余りにも素晴らしい写真を出したからか」


が、今日は普段と違って一時間ほど早く活動は終了。まだ午前中である。

結局今回一番良かった写真はセンリが撮った“月を眺める自分”……だった。


「ムーッ! なんかチョーウザいんですけど!」

雑魚キャラみたいな怒り方をする可憐を見てただただ笑っているセンリ。

まあ確かに自分を題材にした写真を提出する勇気は凄いな、と本心で思う。


「今日という今日は怒ったかんね!

あたしとセンちゃん、どっちが強いか決着つけよーよ!」


なーんでお前は千代以外とも因縁を作ろうとしてんだ。

とは口で出すことはせず、とりあえず二人のやり取りを眺めておく。


しかしセンリが可憐と張り合ってる気がしたのは間違いでは無さそうである。

元の性格的に合わなそうとは思ったものの、険悪になるのは勘弁してほしいが……。


「ゲーセン三本勝負で対決はどうかナ?!」

「望むところだよ。写真と合わせて四連勝になってしまうけどね」


んんやっぱ訂正。仲良いわこの人たち。



「……すごく、仲が良さそうですっ」

「そ、そうだね」

不意に、俺と同じく一歩下がって彼女らを眺めていた部長の春野さんは呟いた。

部員であるセンリと可憐のやり取りを見て笑顔になっていて、非常にカワイイ。




軽い言い争いをしながら帰宅の準備を進め、いつの間にやら門の前まで辿り着く。

ゲーセンってことは門を出て西に進んだ先にあるこじんまりとした所の奴だろうか。

俺と春野さんの帰路とは真逆なので、残念ながら俺たちはここでお別れになるな。


「勿論宮っち達も一緒に来るっしょ?」

「ボクと東郷さんの戦い、キミたちにも見届けてほしいな」

さてどうしたもんか。折角午前に終わったし、家でゆっくりするのも悪くないが…。


「わ、わたしは是非見たいです」


あっはい俺も行きます。



***



――ということで二十分ほど掛けてゲーセンに到着、したは良いものの。

よく考えたらこいつら、境遇的にこういう場所行ったことあるんだろうか。


センリは親元が厳しくて、少し前まで門限もかなり厳しかったと聞く。

可憐も同じように学校終わりに遊んだ事も少なかったと前言ってたし……。


「ルールは簡単、この店にあるゲームを三つプレイして勝ち数が多い方が勝者ネ!」


「部長さん達が選んでくれた三つの内訳は

“クレーンゲーム”に“レースゲーム”に“エアホッケー”……これで構わないね?」


俺と春野さんが「良い勝負になりそう」と思って決めた三種類の戦いである。

あくまでも戦うのは彼女らなので、俺たちはそれを見ておかないといけない。


(うわぁー! こんな所、小さい時にお兄ちゃんと行って以来だ……)

(最初は煩く聞こえた店内の音も、少し居るだけで心地良くなるなんてね)


(本当に大丈夫かこいつら……)



【1戦目 クレーンゲーム対決】


「10回の挑戦で多く景品を取れた方が勝利な」

「二人とも、頑張ってください!」


春野さんに応援されるの羨ましい……おっと今は厳正な審査員なんだった。

邪な考えは捨て、真剣に取りやすそうな台を探す二人に視線を戻しておく。


――が。


「えー、東郷可憐0個。西園茜璃0個。引き分け」


「ちっちゃいやつなら簡単に取れると思ったんだケド……」

「大穴を狙い過ぎた代償かい、これがっ」



【2戦目 レースゲーム対決】


「ルールは、高い順位を取った方が勝者です!」


実際にハンドル握って操作するレースゲー、臨場感あって好きなんだよな。

この不毛な争いが終わったら個人的にやろうかね。一人で。

と、先ほどの1戦目を見て二人の実力が薄っすら分かった俺はそんなことを考えた。


「勝ったのは可憐ちゃん! おめでとうございますっ」


「最後の接戦に勝てたのは応援してくれたミクミクのお陰っしょ!」

「白馬ならもっと上手く走れたんだけど……」


(11位と12位の争いはある意味面白いな)




――ゲームセンターに入って一時間ほど経ち、ついに3戦目まで終わった。

初戦は引き分けで次戦を可憐が勝った中、最後の戦いに勝利したのはセンリ。


つまり1-1の同点である。まさかここまで膠着するとは思わなかったんだが。

「え、えーっと……サドンデスでもう一つやりますか? 何かゲーム」


「戦いたいのはやまやまだけど、もうお金が無いんだよネー……」

「右に同じく」


この二人はかなりの名家生まれだが、そういう所は普通の高校生でどこか安心。

そりゃ突然の思い付きでここに来て使ったんだから、手持ちはなくなるよな。


「それじゃ、俺があと一回プレイできる分のお金は貸すぞ。二人に」


「えぇ!? い、良いの?」

何故か知らんが滅茶苦茶驚いた顔を見せる可憐、とセンリ。

ただ付いてきただけの俺だし、少しくらい役に立たせてくれよな。

「ふむ……ならば、引き分けにならず確実に勝敗が決まるモノがいいね」


「! 思いついた。“アレ”ならば、どう足掻いても勝ち負けが出る……」


顎に手を当てながら考えていたセンリは、そう言いだして視線を動かす。

彼女の瞳の向こうにあるのは……プリクラ?


「ナルホド! あたし達には写真部部長のミクミクもいるもんネ」


「そ、そういう事なら頑張るよっ」


いやちょっと待て。何決まった感じを出してるのだお前たち。

それに春野さんも気合入れなくて良いから。

「それ、どうやって勝敗決めるんだよ? 一人で撮るわけにもいかないだろ」


俺が口に出した瞬間、まるで示し合わせていたかのように二人は言った。


「それは勿論、宮田景人と順番に撮るに決まっているだろ?」

「そゆこと! そんでより盛れた方が勝ちってルールね!」


いやお前ら絶対仲良いだろ。なんだその息の合いっぷりは。

そもそも女子と二人でプリクラを撮るのが恥ずかしいのにそれを連続は――


「そ、それなら私も……お金は出すので私も撮って良いですか!」


Why? いきなり何を言い出すんだこの天使は。


「ミクミクも相手するのはかなりきついケド……負けないよん」

「こんな所で部長と戦える日がくるなんて、ね」


あーなるほどね俺の拒否権は無いと。じゃあもう仕方がないので楽しむぞ俺は。

女子3人とプリクラ撮りまくってやる……羞恥心は捨て置いてな!





 こうして写真部の面々はプリクラを撮り、そのあとご飯を食べて別れたという。

 ちなみにサドンデスは春野美玖が勝利したため、1-1-1の引き分けに終わった。

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